北朝鮮が日本人拉致を初めて認めて謝罪し、日朝の国交正常化を目指すと約束した「日朝平(ピョン)壌(ヤン)宣言」の署名から17日で20年になる。
日帰りで訪朝した当時の小泉純一郎首相との首脳会談で北朝鮮の金正日(キムジョンイル)総書記は拉致に関して「率直におわびしたい」と謝罪。その後、蓮池薫さんら拉致被害者5人の帰国が実現した。だが、そのほかの被害者の帰国に向けた交渉は頓挫。北朝鮮は核・ミサイル開発を進め、国際社会の安全保障上の脅威になっている。
1977年11月に13歳の横田めぐみさんが拉致されてから45年近くになる。帰国を待ちわびた父親の滋さんが2020年に亡くなるなど、被害者家族も高齢化し、亡くなった方も多い。拉致問題は一刻の猶予も許されない課題だ。
安倍晋三元首相は拉致解決を政権の最重要課題と位置付け、無条件で金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記と会談すると表明した。岸田文雄首相もその路線を引き継ぐ。しかし、会談実現への交渉が進んでいるようには見えない。
北朝鮮が核・ミサイル開発を進める最大の目的は金体制の保証の確約を得ることだろう。その相手は朝鮮戦争の休戦協定の当事国である米国だ。20年前は米国との橋渡し役を日本に期待し、日本からの経済支援も求めていた。だが、米本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)を開発したとみられる北朝鮮は、日本を交渉相手と考えていないのではないか。
国際情勢は激変し、北朝鮮は中ロ両国に接近する。だが、その中で事態を打開するのが外交の責務だ。朝鮮半島の非核化を含む安全保障の枠組みを構想する中で、経済支援の提起などを絡め、拉致問題を前進させる―。外交戦略の再構築が求められている。
日朝平壌宣言は当時の課題を包括的にまとめたものだった。日本は植民地支配の反省とおわびを表明し、国交正常化交渉の再開を打ち出した。正常化後の経済協力と相互の財産・請求権の放棄も明記した。韓国との国交を回復した1965年の日韓請求権協定と同じ枠組みだ。北朝鮮の核問題に関して関係各国で協議する場を設けることも盛り込んだ。
一方、北朝鮮は二度と拉致事件は起こさないと約束したものの、めぐみさんら8人は死亡、他の被害者は「未入国」だと回答した。
その後、非道な拉致という国家犯罪に対して日本国内では厳しい批判が湧き起こった。北朝鮮の核問題を話し合う6カ国協議も成果がないまま中断。金正恩総書記は核・ミサイル開発を加速させている。
日本政府は「対話と圧力」の使い分けで拉致、核・ミサイル問題の解決を目指すとしてきた。ただ、2014年にはストックホルム合意で北朝鮮が拉致の再調査を約束したが、核・ミサイル開発に対する制裁措置という「圧力」に反発して再調査を中止。米朝首脳会談に臨んだトランプ前米大統領に拉致問題の提起を託して「対話」も目指したが前進はなかった。
北朝鮮は宣言20年に当たって「日本が制裁で宣言を白紙状態にした」と非難し、拉致問題は全て解決済みとする交渉担当大使の談話を発表した。不誠実な対応を認めることはできない。北朝鮮を交渉の場に引き込む粘り強い外交努力が求められる。