米国が主導する新たな経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」は、参加14カ国が正式交渉入りで合意した。
半導体などのサプライチェーン(供給網)強化、デジタルデータ流通や食料安全保障も含む貿易円滑化、脱炭素につながるクリーン経済推進などを主要な論点として協議。それぞれの分野でルールを定め、協力体制の構築を目指す。
昨年10月にバイデン米大統領が構想を提唱、5月に来日した際に発足を宣言し、参加国の間で具体的な交渉項目の選定協議が続けられてきた。参加国の国内総生産(GDP)合計は世界の4割に達する。
民主主義などの価値観を共有する同盟・友好国が連携して、巨大経済圏構想「一帯一路」などで地域での影響力を増大させている中国に対抗することが米国の狙いだ。
日本としても、環太平洋連携協定(TPP)復帰に後ろ向きな姿勢を続ける米国を、この地域の経済活動に関与させ続けることは、対中戦略上、大きな意味があり、実効性のあるIPEFになるなら国益にかなうと言えるだろう。
だが、過度に中国を刺激することは控えたい。分断を助長するのではなく、バランスの取れた仕組みを目指すべきだ。適切なルールを基に、各国が恩恵を受けることができる新経済圏づくりに主体的に関わっていくことが日本の役割だ。透明度の高い枠組みの中で、国境をまたぐ経済・貿易の活性化を図り、それぞれの国の成長につなげることが望ましい。
しかし今回の交渉は関税削減・撤廃の交渉に踏み込まないため、米国市場への輸出拡大を目指したい新興国にとっては実利が乏しい面もある。
加えて、各国それぞれに中国との距離感や対中貿易依存度が異なっている。中国へどの程度の対抗を打ち出すのか、その考え方にはばらつきが見られる。加えて、米国が掲げる理念や高い水準のルールに対する反応も一様ではない。
交渉入りを決めた閣僚級会合では、インドが貿易分野の交渉に加わらず、早くも不協和音があらわになった。IPEFのルールで、労働者の賃金に基準を求められる事態を嫌ったようだ。
日本は、米国と参加国の間に立ち、橋渡しする立場を自覚しなければならない。参加国の不満、不安を吸い上げて、その解消を図ることが求められている。日本はTPPの妥結をリードして交渉ノウハウを蓄積した。ここは一日の長を生かす場面だろう。
米国は、参加国向けに、人工知能(AI)などの分野で女性の教育・訓練支援を打ち出した。これはこれで交渉を後押しするのは間違いないが、輸出拡大に代わる実利としてはまだ足りない。各国が何を求めているのか、日米はどんな分野で参加国に対する協力が可能なのか、知恵を絞らなければならない。
急務になっているのは供給網の強化だ。新型コロナウイルスの感染拡大、ロシアによるウクライナ侵攻などで、世界は半導体など重要物資の供給縮小を経験した。穀物や資源の輸出制限などに踏み切る国もあった。
各国の在庫情報の共有や、円滑な融通を実現するためのプラットフォームを早急に築きたい。クリーン経済では化石燃料依存を減らす技術、資金援助が重要になる。





 
  






