政府は、新型コロナウイルスに感染し発症した人の療養期間を原則10日間から7日間に短縮し、全数把握してきた感染者の発生届の対象を全国一律に高齢者らに限定するなど、コロナとの共存への移行策を決定した。
岸田文雄首相は第7波が一段落したとの認識を示し「ウィズコロナの新たな段階への移行を進め、社会経済活動との両立を強化していく」と強調した。だが秋冬に懸念される次の第8波に向け、医療機関、保健所などの逼迫(ひっぱく)を繰り返さないよう万全の備えを怠るべきではない。それを共存への移行の条件とすべきだ。
コロナ感染者は有症状の場合、他の人にうつすリスクが、10日間療養し11日目に解除となった場合3・6%だが、8日目の解除では16・0%に上昇するとされる。療養期間の7日間への短縮は、感染拡大リスクをゼロにすることを目指した従来姿勢から、欧米のように一定のリスクを受け入れつつ経済社会を回す政策への転換を意味する。
第7波では医療、保健所、保育・高齢者施設、公共交通が、スタッフに感染者、濃厚接触者が多発して機能まひに陥った。この防止には、感染が広がりやすい一方、重症化しにくいオミクロン株の特性に合わせた方針転換もやむを得まい。ただ首相は「これは決して政治判断ではなく専門家の意見を踏まえた判断だ」と責任転嫁せず、リスクが残ることを説明し今後も危機に備えてほしい。
全数把握簡略化は医療機関の逼迫解消のため、都道府県の判断で適用できる緊急避難措置として始めたが、導入した県は少ない。発生届の対象外となる若い軽症者の健康観察ができなくなると自治体が懸念したためだ。政府は体調急変時に相談できる健康フォローアップセンターを各地に整備し、全国一律導入への仕切り直しを迫られた。
対応が二転三転するうちに感染者数が全国で減少傾向になったため、緊急避難措置として急いでいたはずの全数把握見直しを、首相は危機脱出後のウィズコロナの体制整備に「看板」を付け替えざるを得なかった。後手の対応による迷走で政策の焦点がぼやけたと批判されても仕方あるまい。
迷走の原因は、自治体などの意向を政府が十分くめなかったことだ。今後は医療現場に近い自治体や専門家らとの意思疎通、連携を一層強化すべきだ。
このほか感染者でも症状軽快から24時間経過したか無症状ならマスク着用などを条件に買い物での外出を認め、水際対策も1日当たり2万人だった入国者数上限を5万人に引き上げた。さらに10月にも上限を撤廃し国内の旅行割引を始める方向だ。これらも感染拡大リスクがあることを認識し慎重に運用してほしい。
コロナとの共存には、感染・重症化防止に効果が高いワクチンの普及がなおも重要だ。首相はオミクロン株に対応した新ワクチン接種を今月開始し、10~11月に1日100万回超ペースへ加速する方針を示した。3、4回目接種の途中段階でのワクチン切り替えで現場が混乱しないよう政府は目配りに努めるべきだ。
今後は感染法上のコロナの位置付けを「格下げ」し季節性インフルエンザと同等の扱いにすることの是非などに議論の焦点が移る。ワクチン接種費用や医療費の公費負担見直しも伴うため十分な議論を重ねてほしい。












