<短歌>寺井 淳選

をさな児を連れて夫婦は満開のしだれ桜の中に入りゆく 雲 南 熱田 一俊

 【評】何気ない春の情景ですが、たとえば坂口安吾のあの小説を連想させることで、歌はたちまち妖しいおそろしさをも醸します。「桜の下」でなく「中」としたのも効果的。桜というどこでもドアをくぐって異界へと。

水仙の香り漂ふ長き坂ギアを軽くすサイクリング日 雲 南 多田納 力

 【評】ギアを軽くしなければならない長い登坂は、水仙の香りを楽しむような余裕はあ...