2023年度与党の税制改正大綱が決まった。少額投資非課税制度(NISA)を大幅に拡充し、貯蓄に偏った家計の金融資産を投資に振り向ける枠組みを恒久化した。
だが防衛費の財源にする増税を意識するあまり、格差是正や脱炭素を後押しする改革は先送りされた。成長の新たな道筋は今年も示されなかった。
「資産所得倍増」を掲げる岸田文雄首相が重視したのは、投資信託や株式に非課税で投資できるNISAの規模を拡大し、より使いやすい仕組みにすることだった。
今回の改正で、年間投資の上限を最大360万円とし、生涯投資枠も1800万円に引き上げた。配当や分配金、譲渡益に課税されない期間も無期限になる。貯蓄に偏った家計の金融資産が投資に回る可能性が広がった。手応えのある運用ができる規模になり、中間層の利用を期待したい。
その一方で、証券会社が高いリスクの銘柄を勧めたり、手数料を稼ぐため顧客に売買を繰り返させたりする懸念も指摘されている。
投信や株式への投資は貯蓄と異なり、損失のリスクが伴う。金融庁は、顧客の知識や暮らしの実情に見合った説明を証券会社などに徹底させてほしい。中学、高校での金融や投資の教育にも本腰を入れる必要がある。
年間の所得が1億円を超えると、税負担率が低下する「1億円の壁」は、所得の合計が30億円を超えるような富裕層に限って税負担を追加する是正策が示された。実際に対象になるのは年200~300人程度にとどまり、不公平感の解消にはほど遠い。一般の納税者の不満や疑問に応える改正とは言えない。
富裕層の株式売却益などへの課税強化には市場関係者が反対している。しかし金融所得課税を見直さなければ、格差是正は実現しない。分配重視はかけ声だけで終わるのだろうか。「新しい資本主義」の内実が問われる問題だ。
環境関連では、自動車関連の税制が転機を迎えている。自動車重量税を軽減するエコカー減税は23年4月末を期限としてきたが、23年末まで現行のまま据え置く。半導体不足などで生産や納車が遅れており、妥当な判断だ。24年1月からは対象車種を段階的に縮小する。
一方、電気自動車(EV)の拡大を見据えた税制は3年後に枠組みを示すことになった。ガソリン税や軽油引取税はEVへの転換で税収減が見込まれる。EVの税負担としては、走行距離に応じた新たな課税などが取りざたされている。幅広い分野で影響が生じる問題であり、透明性の高い議論を望みたい。
脱炭素をめぐる検討は今年も深まらなかった。温暖化ガスの排出量に応じて企業に課税する炭素税は棚上げされたままだ。「グリーン税制」は姿すら見えず、欧州や米国に比べ見劣りする。首相は脱炭素を成長分野と位置付けているが、あまりにおざなりではないか。
小規模事業者やフリーランスにとっては、23年10月から導入される消費税のインボイス(適格請求書)制度も頭が痛い問題だ。以前から決まっていたとはいえ、まだ準備できていない業者も多い。各地の商工会などと連携し、今回決まった負担軽減策の周知を徹底してほしい。税務当局は、中小企業の実態を踏まえた柔軟な制度運用を心がけるべきだろう。