防衛費の突出が国をゆがめる、その姿が端的に予算に表れた。政府が閣議決定した2023年度予算案は、一般会計の歳出総額が114兆3812億円と前年度当初から約6兆8千億円も大幅に増え過去最大となった。防衛力強化の政府決定を受け防衛費が急膨張したためだ。
予算案は防衛費増額のための財源確保策がほとんど「机上の空論」である点も明確にした。
岸田文雄首相は、27年度までの5年間で計43兆円の防衛力整備費を確保する財源を、24年以降の増税と、歳出改革などで捻出すると表明した。23年度はその初年度の重要な位置付けにある。
このため来年度は、決算剰余金と歳出の見直し分に加えて、特別会計や独立行政法人で余ったお金、国有財産の売却益などの税外収入をかき集めて何とかひねり出した。
しかし剰余金や税外収入が都合よく毎年度確保できる保証はない。政府は歳出見直しによる財源を最終的に約1兆円確保する計画だが、23年度に集められたのはわずか2千億円ほど。財務省幹部でさえ「簡単に達成できると考えていない。相当厳しい」と先行きを悲観するありさまなのだ。
このまま決定通りに防衛費の増額を続ければ、子育てや教育などほかの予算へしわ寄せが及び、増税規模の拡大、そして国債発行による借金頼みに陥る恐れがある。国会審議で「異形の予算」の問題点をあぶり出し、適切な規模と内容へ防衛費を見直すべきだ。
予算全体をゆがませた防衛費の突出は、その金額と中身に顕著だ。来年度予算案には防衛費として前年度比2割超、1兆4千億円余り多い6兆8219億円と、再来年度以降に充てる防衛費の新資金枠として3兆4千億円弱が盛り込まれた。
国家安全保障戦略に明記された反撃能力(敵基地攻撃能力)を具体化する装備では、米国製巡航ミサイル「トマホーク」の取得費2113億円に加え、陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾改良型」の開発・量産費を1277億円計上した。
地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の計画頓挫後の転用で、艦船建造に切り替えた「イージス・システム搭載艦」2隻の整備費2208億円も入った。イージス艦の最終的な建造総額は不明で、巨額となる可能性が指摘される。
この結果、防衛費は政策経費で最大の社会保障関係費に次ぐ2番目となり、公共事業費、文教・科学振興費を上回った。
岸田首相は安保戦略などの改定に際して「平和国家としての日本の歩みは今後とも不変だ」と強調した。だが予算は日本の「軍事大国化」を映しており、アジア諸国・地域が懸念を強めるのは避けられまい。
政府は今回、建設国債による借金を施設整備や艦船建造に充てられるよう、財政ルールをなし崩しに転換した。
新規の国債35兆円余りが加わり、来年度末の日本の長期債務残高は1279兆円に達する。防衛費増が財政をより悪化させないため、新たな歯止めが必要だ。欧米の主要国は財政健全化の取り組みを客観的に検証する「独立財政機関」を持つ。
予算案は、新型コロナウイルス対策などのために計5兆円の巨額予備費を組み入れた。内閣の「財布」のような予備費の使い方を監視するためにも機関が役立つだろう。