ウクライナのゼレンスキー大統領がロシアの侵攻後に最初に選んだ外国訪問先はやはり米国だった。戦力では劣るものの、ロシアを押し返すまで善戦を続けているのは、米国からの兵器や軍事情報の供与、そして資金支援があるからだ。
国際秩序を踏みにじり残虐行為を繰り返すロシアの侵攻を敗北に導くには、米国を中心とした国際社会のウクライナ支援の強化が不可欠だ。
厳冬期に入り、欧州ではロシア産エネルギーの入手が減り暖房費の高騰に市民は悲鳴を上げる。長期戦の予想が強まり、多額の支援への不満も米議会では漏れている。だが、ウクライナ国民にとっても国際社会にとっても正念場を乗り切るために、支援を充実させる以外に手段がないことを確認したい。
ゼレンスキー氏は米議会で演説し、ウクライナへの支援は「慈善ではなく、世界の安全保障と民主主義への投資だ」と語り、支援疲れの風潮の一掃を訴えた。
予算措置の権限を握る下院で1月に議長に就任する可能性があるマッカーシー共和党院内総務はウクライナに「使い放題の小切手は渡さない」と述べている。
しかし、ロシアの侵攻や中国の軍事拡張主義の動きを見ると、この戦争はウクライナを超えて世界的なインパクトを持つと気づく。世界の平和と繁栄を維持するのは覇権国の務めであるのだから、米国は狭量な自国第一主義に走るべきでない。
バイデン大統領はゼレンスキー氏との首脳会談で、米軍の主力地対空ミサイルシステム「パトリオット」供与の意向を伝えた。無誘導爆弾に衛星利用測位システム(GPS)を組み込み、精密誘導能力を付与する装置も含まれる。
ロシアはウクライナの発送電施設などを集中的に攻撃して広範囲な停電や断水を引き起こし国民を凍えさせて戦意をくじく作戦にでている。パトリオットの供与はそうした長期の攻撃に対抗する姿勢を示すものだ。
2月24日に始まった戦争は終息の見通しが立たない。ロシアはウクライナに親ロシア政権の樹立を目標に掲げ、ウクライナは2014年に併合されたクリミア半島を含め全土からのロシア軍の撤退を求めている。
双方の目標は軍事的に達成は不可能とみられている。だが、米政府高官は、停戦協議に関して隔たりが大きく「戦争終結の外交は近い将来には実現しない」と断言した。
激戦が続くウクライナ東部バフムトを直前に訪れ、兵士から託された国旗を抱えてゼレンスキー氏はワシントンを訪れた。「絶対に勝つ」というそのメッセージは揺らぎがないようだ。
米国を中心とした国際社会に求められるのは、ロシアによる核兵器の使用や他国への戦火拡大を防ぎつつ、ロシアにウクライナの属国化をあきらめさせ、撤退を決断させることだ。
プーチン・ロシア大統領がそれを受け入れる兆しは見えない。しかし、軍の撤退、多人数の兵士の犠牲や士気の低下、膨大な兵器の喪失、そして想定外の動員に踏み切らざるを得なかった状況から、戦争が困難に陥ったと自覚しているはずだ。
自由民主主義的な国際秩序が崩れ、核兵器大国の横暴がまかり通る世界の出現は、日本にとって悪夢である。日本もウクライナへの支援に積極的であるべきだ。