くん製室の中で、一般向けの商品を手にする佐藤日呂登さん=島根県知夫村、知夫里水産
くん製室の中で、一般向けの商品を手にする佐藤日呂登さん=島根県知夫村、知夫里水産

 離島という流通のハンディを乗り越え、高品質な魚のうまみを引き出して消費者へ届けようと、島根県知夫村の水産加工業者が、燻製(くんせい)の出荷を本格化させる。魚の目利きとして経験のある経営者が、首都圏の高級ホテルや有名料理店に売り込み、一般向け商品の販売も計画している。

 マダイやレンコダイ、イサキといった魚の燻製加工に取り組むのは知夫里水産の佐藤日呂登社長(48)=東京都出身。東京水産大で生物学を学び、食品卸や人材派遣会社の経営を経て、山口県長門市にあるフグなど水産加工の老舗・松浦商店で修業した。

 2016年に同市であった日ロ首脳会談では知夫村で水揚げされたマハタを料理人に提供。刺し身を食べないと言われたプーチン大統領だが、後に料理人から「(プーチン氏から)『きょうの魚はおいしかった』と言われて良かった」と感謝されたという。その後、イワガキの燻製の開発を相談されて初めて知夫村を訪れたのをきっかけに、村が新設した水産加工冷凍施設の設計や加工技術の指導を依頼された。

 村内で漁業関係者と話すうちに経営を勧められて知夫里水産を起業。20年7月に村へ移住し、施設を指定管理して21年10月に操業を始めた。

 村の漁獲物は、境港に移送されて競りにかけられる。漁獲から食卓に上がるまで時間がかかり、移送コストが課題となっていた。佐藤さんは「知夫村の魚は味が良く、魚体が大きい。そして、競りにかける時間がないのが魅力だ」と鮮度の高い状態で素材を仕入れるメリットを強調。購入した魚は加工場でさばき、塩漬けなどの工程を経て独自製法で燻製にする。

 正社員3人、パート2人を雇用し、22年は練度を上げるのに専念した。「上手にできるようになり、本当の勝負は2023年になる。必ず物にしていきたい」と話し、スマガツオの押しずしや燻製の切り身といった一般向け商品の発売や冷凍自動販売機で村内での販売も目指す。

(鎌田剛)