衆院山口2区の補欠選挙が告示され、候補者の出陣式で気勢を上げる人たち=11日午後、山口県岩国市
衆院山口2区の補欠選挙が告示され、候補者の出陣式で気勢を上げる人たち=11日午後、山口県岩国市

 衆院の千葉5区、和歌山1区、山口2区・4区の4補欠選挙が告示された。先に選挙戦が始まった参院大分選挙区補選とともに、23日に投開票される。

 国政選挙は昨年7月の参院選以来。政府、与党はこの間、日本の行く末を左右する政策決定を積み重ねてきた。対象選挙区は限られるが、有権者が投じる1票は、岸田文雄首相の政権運営への審判という重みを持つことに変わりはない。

 5補選は、自民党の公認候補と野党の公認候補らによる与野党対決の構図になった。同じ23日には統一地方選の後半戦も投開票されるが、5補選では国政の評価に絞って投票先を決めたい。

 岸田政権は昨年12月、日本の防衛力を抜本的に強化するとして、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を打ち出した。

 2023年度から5年間で約43兆円を投入する方針の下、今年3月には過去最大の防衛費を盛り込んだ23年度予算を成立させた。巨額の防衛費を賄うため「24年以降の適切な時期」に1兆円強の増税も実施予定だ。

 首相は日本が直接武力攻撃されない場合でも、反撃能力の発動は可能との考えを示す。日本と密接な関係にある他国が攻撃を受け、日本の存立も脅かされるなど集団的自衛権行使の要件に当てはまる場合だ。

 首相は否定するが、専守防衛の理念から逸脱するとの懸念が消えないのは当然だろう。

 東京電力福島第1原発事故以降の抑制的な原発政策も転換した。最長60年としてきた原発の運転期間の延長を可能とする法案を今国会に提出し、次世代型原発への建て替えも推進するなど、原発活用にかじを切った形だ。

 中国や北朝鮮の軍備拡張で厳しさを増す安全保障環境、ロシアのウクライナ侵攻や気候変動で逼迫(ひっぱく)する恐れがある電力需給状況。そうした事情があるにせよ、岸田政権が推し進める安保や原発政策を容認するのかどうか。

 今回の補選は「命と暮らし」の関わる重要課題について、賛否をいち早く表明できる機会だと言っていい。

 将来世代に影響する政策課題には少子化対策も挙げられる。

 政府は3月末、対策のたたき台となる試案を公表した。児童手当の所得制限の撤廃や育児休業給付引き上げ、保育サービスの利用拡大などが盛り込まれた。

 首相は「次元の異なる」中身にすると宣言していたが、野党が主張していた対策と重なる部分が少なくない。これらの対策の実施には兆円単位の財源が必要とされるものの、統一地方選や衆参5補選への悪影響を避けるためか、財源確保策は先送りされている。

 国民に負担増を強いるのであれば、選挙戦と並行する国会審議で明らかにし、有権者の判断材料とすべきではないか。

 参院選後には、自民党と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との不明朗な関係が明らかになり、不祥事による閣僚の辞任が相次いだ。投票に当たっては、政治の信頼回復に向けた首相の取り組みも重視したい。

 対する野党は、衆院千葉5区で候補者が乱立するなど共闘態勢を構築できず、主要政策面でも隔たりがある。やむを得ない面はあるが、与党に代わって有権者の選択肢になるには、国会審議や選挙戦で説得力ある対案を示すことが求められる。