新型コロナウイルスの感染症法上の位置付けが8日、季節性インフルエンザと同じ5類へ引き下げられる。3年余り続いた世界保健機関(WHO)の緊急事態宣言も終了。ウイルスとの闘いは「ウィズコロナ」への本格移行という節目を迎える。
症状がある感染者には法律で原則7日の自宅療養を求めてきたが、今後は個人判断が基本となり、5日療養を政府が推奨する。医療費は高額な治療薬代などを除き原則自己負担が発生。緊急事態宣言の発令はなくなる。だがウィズコロナは「ウイルスとの共存」であって「脱コロナ」ではない。専門家は流行第8波を上回る第9波が来る可能性を指摘する。ワクチン追加接種や重症化リスクが高い高齢者らへの対策は当然必要だ。
その上で政府は3年超を徹底検証し、教訓を未知のウイルスによる次のパンデミック(世界的大流行)対応に生かさなければならない。昨夏、有識者が約1カ月でまとめた報告書では不十分だ。2009年の新型インフルエンザ流行でも有識者が10年に感染症対策の改革案を報告書にまとめた。それを政府が実行していれば、新型コロナ対策の難航は避けられたとの指摘が絶えない。「喉元過ぎれば…」の失態はもう許されない。
場当たり対応が続いた。クルーズ船で集団感染が起きると乗客らを横浜沖に2週間以上留め、世界から批判された。法改正で可能にした緊急事態宣言の発令と解除を繰り返し、使い勝手が悪くなると「まん延防止等重点措置」も新設。当初は事業者の支援制度もないまま飲食店のみならず百貨店、パチンコ店、カラオケ店などにも休業要請し、経済は低迷に陥った。
それでも、海外のようにロックダウン(都市封鎖)をせず、感染・死亡者数を低く抑えられた「日本モデル」は成功だった、と政府や有識者は言う。ならばウィズコロナへの本格移行、経済再生で欧米に後れを取ったことはどう評価するのか。
コロナとの闘いの初期、観光業界振興のため政府が始め、感染拡大で半年もたたず全国で停止に至った「Go To トラベル」もあった。東京五輪は1年延期後、東京が緊急事態宣言下にあった21年7月、開幕へ踏み切った。多額の財政支出を伴ったこれら政策判断も総括抜きで済むまい。
こうした迷走は、新型インフルを巡る10年報告書が予言していたに等しい。(1)国と医療現場、自治体、専門家との連携(2)感染症危機管理を専門的に担う組織(3)保健所を含むPCR検査体制(4)ワクチンの製造業者支援と接種体制確保(5)国民への広報やリスクコミュニケーション―などの強化を報告書は求めていた。
政府は内閣感染症危機管理統括庁、国立健康危機管理研究機構の新設に踏み切る。だが、いかに「司令塔」を作っても、コロナ禍で繰り返した医療逼迫(ひっぱく)を根絶できるかは別問題だ。
諸外国より人口比で病床数の多さを誇る一方、医療従事者が比較的手薄で、民間病院が大半を占める日本医療の「弱点」克服抜きには医療体制強化は望めまい。
切り札となるワクチンの接種開始は米英両国より2カ月遅れた。悲願となった国産のワクチン、治療薬の開発、生産はなお道半ばだ。感染症対策のみならず安全保障の観点からも、次のパンデミックに備える地道な努力を今から本格化させたい。