中国電力島根原発2号機(松江市鹿島町片句)の再稼働に、島根県の丸山達也知事が同意してから2日で1年を迎えた。国が「依存度の低減」から最大限活用へ原子力政策を大きく転換するなど、原発を取り巻く環境はこの1年で大きく変わった。広域避難先はどうなっているのか、同意後の各省庁にどのような要望をしたのかなどを確認し、1年前の知事の発言を振り返る。

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<広域避難先は?>
 

避難先の一覧表

<再稼働同意後の各省庁への要望事項>
 再稼働同意後、島根県は内閣府や経済産業省、原子力安全委員会などに対して要請を行った。
 要請の詳細はこちらから

<1年前の知事発言>

 

島根県議会で、中国電力島根原発2号機の再稼働への同意を表明する丸山達也知事(手前)=2022年6月2日


 島根県の丸山達也知事が中国電力島根原発2号機(松江市鹿島町片句)の再稼働同意を、2022年6月2日の県議会で表明した。知事発言の全文は次の通り。

【①判断結果】

 最初に判断結果を申し上げます。

 島根原発2号機の再稼働については、現状においては、やむを得ないと考え、容認することといたします。

 したがいまして、中国電力に対しては、安全協定に基づく事前了解を行うことといたします。

 また、経済産業大臣から理解要請のあった、原発再稼働を進める政府の方針については、中国電力へ島根原発2号機の設置変更許可に係る事前了解を行った旨を回答することといたします。

 同様に、松江市、出雲市、安来市、雲南市および米子市、境港市と鳥取県に対しても、中国電力へ島根原発2号機の設置変更許可に係る事前了解を行う旨を回答することといたします。

 このような判断に至った私の考えについて、経過を含め、ご説明します。

【②経過】

 この判断を行うに当たり、今から11年前の平成23年3月11日に発生した福島原発事故を忘れるわけにはいきません。

 今なお、2万2千人の方々が避難指示の対象となっており、復興の途上にあります。

 私は、知事に就任した令和元年の8月に、福島県を訪問し、このような事故は二度と起こしてはならないとの思いを改めて強くしたところです。
 

福島県浪江町の特定復興再生拠点区域。除染廃棄物が詰まった袋がまだ残る=2023年3月(共同)

 島根原発2号機は、この福島原発事故を踏まえて制定された新規制基準に適合させるため、中国電力が平成25年12月25日に、原子力規制委員会に設置変更許可を申請し、7年半にわたり審査が行われ、昨年9月15日に設置変更許可が出されました。

 また、避難対策については、島根地域全体の避難計画である「緊急時対応」が、島根・鳥取両県や、国の関係府省庁等で構成する「島根地域原子力防災協議会」において、具体的かつ合理的であると確認され、内閣総理大臣を議長とする政府の「原子力防災会議」において、昨年9月7日に了承されました。
 

2022年6月3日付の山陰中央新報。再稼働に同意した知事の発言を1ページを使って掲載した

 原発の再稼働を進めているのは国でありますので、原発の安全性や避難対策、必要性については、国がしっかりと説明することが極めて大切であります。

 このため、再稼働判断を行うに当たり、まず、国から安全性や避難対策、原発の必要性等について説明を受けました。

 その後、住民団体の代表の方々も参加する安全対策協議会、専門家である原子力安全顧問による顧問会議においても、同様に国から説明を受け、意見をいただきました。

 また、昨年10月から11月の間に、県内関係4市の7カ所で住民説明会を開催し、同様に国から説明を受け、住民の方々からも直接意見をいただきました。

 県議会におかれては、特別委員会を設置され、同様に国から説明を受けられ、執行部からも安全対策協議会や顧問会議、住民説明会で出された意見や県の認識等を報告し、慎重に調査いただいたところです。

 また、県内周辺自治体の出雲市、安来市、雲南市については、県知事として再稼働の可否の判断に当たり、それぞれの考えをよく理解し、意見をくみ取るために、昨年9月に新たに「知事・3市長会議」を設け、3市長から直接意見等を伺いました。

 このような機会を通じて、さまざまな意見等をいただきましたが、その過程において論点となったもののうち、主要なものについて、私の認識を説明いたします。

【③県議会・安対協・住民説明会での論点と県の認識】

<安全性>

 まず、安全性についてであります。

 (1)基準地震動

 最初に、地震対策として、島根原発への影響が大きいとされた宍道断層は、鳥取沖西部断層と連動し、想定する地震がさらに大きくなるのではないか、という意見がありました。

 これに関しては、国や中国電力から、宍道断層と鳥取沖西部断層の間には、活断層の可能性を示す重力異常がないこと、音波探査の結果でも活断層がないこと、さらに、断層を遮る地質構造があること、などから二つの断層は連動しないとの説明がありました。

 (2)重大事故対策

 次に、福島原発事故のような電源や注水機能が喪失するといった重大事故が発生した場合に適切に対応できるのか、という意見がありました。

 これに関しては、国や中国電力から、外部電源が喪失した場合に備え、非常用ディーゼル発電機や移動可能な高圧発電機車などの複数の電源を確保していること、また、外部電源と非常用ディーゼル発電機などが同時に使えなくなった場合でも、原子炉の蒸気で動くポンプにより注水を行うことで、原子炉の冷却ができること、さらに、状況によっては、大量送水車によって屋外から注水することから、炉心は損傷しないとの説明がありました。

 (3)フィルタベント

 次に、このような安全対策が、万が一機能せず、放射性物質の放出に至った場合に備えて設置されるフィルタベント設備は、どの程度放射性物質を軽減できるのか、という意見がありました。

 これに関しては、国や中国電力から、フィルタベント設備を通すことで、福島原発事故において1万TBq(テラベクレル)の放出があったとされ、住民の長期避難の原因となった粒子状の放射性物質が、1/1000以下まで抑えられるとの説明がありました。

 (4)安全性に係る認識

 これらの論点を含め、原子力安全顧問からは、安全性に関する原子力規制委員会の審査結果を疑問視する意見はなかったことから、県としては、審査結果は妥当であると考えております。

 一方、不適切な事案を繰り返してきた中国電力を、原発を運転する事業者として信頼できるのか、という意見もありました。

 国からは、法律に基づく原子力規制検査において、島根原発に常駐している原子力規制庁の検査官が日常的に現場の実態を厳格に確認するなど、事業者側の緊張感に緩みが出ないように対処するとの説明がありました。

 しかしながら、不適切事案を繰り返す中国電力に不安を抱かれる住民の方々がおられることも事実であります。

 この不安を解消するためには、まず原子力事業者である中国電力が、しっかりと安全対策に取り組むことが必要であります。

 県としても、引き続き、中国電力には安全に対する意識改革の徹底を求め、国には検査等による中国電力の安全に対する姿勢や取り組みの確認を求め、その活動を注視していくとともに、必要に応じて安全協定に基づく立ち入り調査を行うなどして、周辺地域住民の安全確保に取り組んでまいります。

 (5)リスクはゼロにならない

 また、設置変更許可は、新規制基準を満たすかを審査するのであり、これで原発事故は起きないとか、リスクがゼロになるということではない、という意見もありました。

 新規制基準に適合した安全対策を実施すれば、原発が事故を起こす確率は極めて低くなりますが、決してリスクがゼロになるわけではないと、国も説明しております。私も同じ認識であり、絶対的な安全はないという認識のもと、不断に安全性向上に取り組むことが重要であります。

<避難対策>

 次に、避難対策についてであります。
 

島根原発からの距離

 避難対策については、国、県、市で一体的に取り組んでおり、県も当事者の立場から説明させていただきます。

 (1)屋内退避等の避難方法に関する住民理解

 最初に、原子力災害時に屋内退避を行うことなどの避難方法等について住民の理解が不足しているのではないか、という意見がありました。

 屋内退避を行うことにより、相当程度の被ばくを抑えることができるということなど、原子力災害時の避難方法等については、これまでも広報誌や住民学習会、原子力防災訓練における緊急速報メールの配信等で周知を図ってきました。

 一方、原子力災害に対する住民の方々の関心には濃淡があることから、事前の広報に取り組むだけでなく、万が一事故が起きた際に、テレビ、ラジオ、SNS等のあらゆる手段で、とるべき行動を具体的にわかりやすく伝えていくこととしています。

 (2)避難道路の渋滞発生

 次に、避難する際に、避難車両が集中し、市街地や橋梁(きょうりょう)で渋滞が発生するのではないか、という意見がありました。

 避難ルートについては、渋滞が発生しないように、信号機の多いエリアや橋梁をできるだけ通行させないルートを設定しています。

 しかしながら、状況によっては、渋滞が発生し得るため、その際は、遠隔操作により、避難ルートの信号を一斉に青にするなど、警察と連携し、きめ細かく対応することとしています。

 (3)避難行動要支援者の避難

 次に、病院や高齢者施設等に入院・入所されている要支援者の方などが確実に避難できるのか、という意見がありました。

 原発から30キロ圏内の、要支援者の方が入院・入所されている病院や高齢者施設等では、避難計画を策定し、原子力災害時の避難手順等を定めていただくこととなっています。

 また、原発近隣の病院や高齢者施設等では、すぐに避難できない方のために、放射線防護対策設備を整備するなど、避難の準備ができるまで安全に屋内退避を行うことができるようにしています。

 在宅の要支援者の方についても、各市が安否確認等を行い、消防団員等の支援を得ながら避難していただくこととなっています。

 要支援者の方の避難の際に必要となる車いすやストレッチャー用車両については、中国5県のバス・タクシー協会や中国電力にお願いし、万が一の原子力災害時には確実に必要台数を確保できる見込みです。

 このようなことから、要支援者の方々も、安全に避難していただくことが可能と考えております。

 (4)感染症への対応

 次に、避難時の新型コロナウイルス感染症対策について、第6波のように自宅療養者が想定以上に増えた場合などにどのように対応するのか、という意見がありました。

 新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえ、県では、マニュアルを作成し、避難時における感染症に対応しているところです。第6波のように自宅療養者が増えたことは想定外でありましたが、訓練等を通じてこの課題を認識し、自宅療養者は、避難指示が出された際には、直接、避難先市町村に向かうのではなく、県が用意した施設に一時的に滞在していただくこととしました。今後も、新たに課題が発生するかもしれませんが、その際は直ちに、解決方法を検討し、対応策をとることとしております。

 (5)複合災害への対応

 次に、地震の被害などで道路の寸断が起きた場合に避難ができなくなるのではないか、という意見がありました。

 県では、避難ルート上にある橋梁の耐震化や、落石等通行危険箇所の整備等の対策を着実に進めているところです。

 また、原子力災害時の避難ルートは複数設定しており、一つの避難ルートが使用できない場合は、あらかじめ定めている別の避難ルートなどを使用するとともに、道路管理者等が道路の啓開・応急復旧を実施します。

 それでも避難が困難となる場合は、自衛隊などに支援を要請し、ヘリコプターや船舶を活用し、避難していただきます。

 (6)避難対策に係る認識

 また、さまざまな課題がある中で、避難計画の実効性はなく、住民は不安を抱いている、という意見がありました。

避難計画のイメージ

 県としては、自然災害と同様にしっかりとした計画を策定し、訓練を行ってきていることから、避難計画には実効性があると認識しております。

 しかしながら、自然災害とは異なる避難方法などに、不安や疑問を抱かれる住民がいらっしゃるのも事実であります。

 県としては、どのような不安や疑問を持たれているのか、一つ一つの声を参考にしながら、引き続き、訓練や周知等、避難計画の実効性を高めるための取り組みを継続してまいります。

 特に、避難方法の周知については、住民の皆さまにとっては、災害時にわが家はどうすればいいのかということが一番大事な情報だと考えており、地区ごとの一時集結所や避難ルート、避難先等を地図に記したパンフレットを作成し、各戸に配布するなど、関係市と一体となって取り組みを進めていくこととしています。

<原発の必要性>

 次に、原発の必要性など国のエネルギー政策についてです。

 (1)電力は足りている

 最初に、電力が足りているのになぜ原発を稼働するのか、という意見がありました。

 これに関しては、国から、現状、電気は足りているものの、電力の多くが火力発電で賄われており、温室効果ガスを排出することや、エネルギー自給率が先進国でも最低の水準まで低下していることなどの問題があるとの説明がありました。

中国電力島根原発。手前左から、再稼働を目指す2号機、廃炉作業中の1号機、奥が新規稼働を目指す3号機=松江市鹿島町片句(資料)

 また、国は、将来世代のためにも、2050年に温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする方針であり、そのために、再生可能エネルギーなどの温室効果ガスを排出しない電源を最大限導入することとしているが、再生可能エネルギーにはまだ課題があり、多くの電力を賄うことができないとの説明がありました。

 (2)再生可能エネルギー・省エネによるCO2対策

 さらに、なぜ、再生可能エネルギーと省エネで電力を賄えないのか、という意見がありました。

 これに関しては、国と中国電力から、再生可能エネルギーの発電単価は高く、電気料金の賦課金という形で国民負担が増えていくこと、太陽光発電や風力発電等に適した地域が限られていること、再生可能エネルギーは、天候の状況により発電量が左右されるが、導入量の増加に伴い、厳冬期に暖房などの電力需要が増える場面で、日照不足で発電量が低下し、電力需給が逼迫(ひっぱく)する事案が発生していること、安定的に発電できない再生可能エネルギーのため、バックアップ用の電源を用意する必要があるが、中国電力管内では、バックアップ用に使用する火力発電の約4割が運転開始から40年を超え、故障のため発電ができなくなる事案が出てくるなど、その確保が課題となっていることなどから、再生可能エネルギーの導入には限界があり、省エネについても、既に電力消費量の2割程度を減らすことを前提としており、これ以上の省エネは、国民生活に支障が生じることから、資源が乏しいわが国においては、温室効果ガスを削減しながら、国民負担を抑制しつつ電力を安定的に供給するためには、当面は、原発の活用は必要不可欠であるとの説明がありました。

 (3)原発の必要性に係る認識

 県としては、温室効果ガスの削減を進めながら、国民負担を抑制しつつ、再生可能エネルギーと省エネだけで電力を安定的に賄うことは、現状では困難であり、原発が一定の役割を果たしていく必要があるという国の説明は理解できるものであります。

 県としても、「再生可能エネルギー及び省エネルギーの推進に関する基本計画」や「島根県環境総合計画」を策定し、これまでも再生可能エネルギーの最大限の導入促進と省エネの推進に取り組んできたところであり、今後も取り組みを進めることとしております。

<核燃料サイクル>

 国のエネルギー政策のうち、核燃料サイクルについても論点となりました。

 使用済燃料から再処理により分離されたプルトニウムをMOX燃料に加工して再利用する、いわゆるプルサーマルを含む核燃料サイクルは、原子力利用の前提となっている政策であり、島根原発の使用済燃料も対象となっています。

 (1)放射性廃棄物の処理・処分

 最初に、再処理工場の竣工(しゅんこう)が何度も延期されており、また、使用済燃料を再処理する際に生じる高レベル放射性廃棄物等の最終処分場のめどが立っていない中で、島根原発を再稼働しても大丈夫か、という意見がありました。

 これに関しては、国から、青森県六ケ所村の再処理工場等に原子力規制委員会の事業変更許可が出されたこと、高レベル放射性廃棄物の最終処分について北海道の2町村で文献調査が開始されたことは一定の前進であり、核燃料サイクルの問題は、今後も政府として強い決意と責任を持って取り組んでいくとの説明がありました。

 また、中国電力からは、島根原発は、2号機が再稼働しても、使用済燃料の貯蔵容量にはまだ余裕があるため、当面は現行の貯蔵設備を活用するとの説明がありました。

 (2)プルサーマル

 次に、六ケ所村の再処理工場が稼働すれば、年間7トンのプルトニウムをつくることが可能になるが、それをプルサーマルとして使う原発の再稼働が進んでおらず、利用目的のないプルトニウムは持たないとされている中で、結局再処理を進めることはできないのではないか、という意見がありました。

日本原燃の使用済み核燃料再処理工場=2020年5月、青森県六ケ所村(共同)

 これに関して、国から、電気事業連合会においては、プルトニウムの需給バランスの確保に最大限取り組むことなどを内容とする、新たなプルサーマル計画を令和2年12月に策定し、プルサーマルを早期かつ最大限導入することとしている、との説明がありました。

 (3)核燃料サイクルに係る認識

 核燃料サイクルの問題は、原子力の利用を進めている国が責任をもって解決すべきとの認識であります。

 国においても、核燃料サイクルについては社会全体で必ず解決しなければならない課題であり、強い決意と責任を持って取り組むとの認識であり、県としては、引き続き、再処理事業の進捗(しんちょく)状況を注視していくとともに、国が前面に立って取り組みを加速するよう求めていく考えです。

<その他>

 このほか、地域経済への影響などについても論点となりました。

 (1)原発の経済効果

 県議会では、原発が立地することによる地域経済への影響について、島根原発を再稼働せず、廃炉とする場合の地域経済への影響はどうか、という意見がありました。

 これに関しては、中国電力から、島根原発があることで、中海・宍道湖・大山圏域においては年間220億円程度の経済効果があること、また、島根原発では、協力会社を含め3千人程度が働いており、その半数以上が中海・宍道湖・大山圏域に居住していること、島根原発が再稼働せず、廃炉になった場合は、そうした経済効果や雇用の多くが失われること、などの説明がありました。

 (2)再稼働の場合の電気料金低廉化

 次に、2号機が再稼働した場合、電気料金を下げることができるのか、という意見がありました。

 これに関しては、中国電力から、2号機再稼働の直接的な効果として、燃料代を年間400億円程度削減することができ、安定的に低廉な料金となるよう努めていくとの説明がありました。

 (3)国の交付金等

 県の原子力安全顧問からは、住民の方々に再稼働の判断のため原発の安全性や、避難対策、必要性等を説明するに当たっては、併せて原発の立地に伴う国からの交付金等についてもしっかりと説明し、意見を伺うべきとの指摘がありました。

 そのため、県において、これまで、電源立地交付金、核燃料税、原発特措法等による財政措置を活用して、松江第五大橋整備をはじめとした道路等の社会資本整備や、こども医療費への助成等の住民福祉の向上のための施策などを進めてきたこと、また、再稼働した場合の交付金等の増額などの説明を行ったところです。

 (4)地域経済への影響に係る認識

 私は、再稼働判断に当たっては、安全性、避難対策、必要性の観点以外にも、このような地域経済への影響も考慮しなければならないと考えております。

 再稼働しなかった場合の地域経済への影響は、県経済にとって大きいとの認識であります。

 (5)武力攻撃事態への対処

 また、原発へのミサイル攻撃等についても論点となりました。

 安全対策協議会や住民説明会等で、原発へミサイル攻撃が行われた際の対応について意見が出され、私自身が国へ出向き政府の対応を確認していたところです。

 その後、ロシア軍のウクライナへの侵攻において、実際に、原子力発電所への砲撃が行われました。原子力発電所への武力攻撃は決して許されない暴挙であり、周辺地域住民の安全を脅かすもので、断じて容認することはできません。
 

ロシアが占拠するウクライナ南部ザポロジエ原発=2023年3月(ロイター=共同)

 他国の領土や主権の侵害は何の利益も生まず、自らの国益を大きく毀損(きそん)するとの共通認識・秩序を国際社会において確立することこそが、最大の抑止力であると私は認識しており、国が毅然(きぜん)と対処することが必要であります。

 このため、私は、全国知事会の原子力発電対策特別委員会委員長として、内閣官房に対し、国際社会と協調した経済制裁措置の実施など、外交等を通じた武力攻撃事態の抑止や、武力攻撃が懸念されるような場合の原子力事業者に対する運転停止命令などの迅速な対応、さらに、万が一、ミサイル攻撃等が行われるような事態となった場合の自衛隊による迎撃態勢と部隊の配備などを緊急要請しました。

 今後も引き続き、県の重点要望や全国知事会など、あらゆる機会を通じて、これらの事項を求めていく考えです。

【④関係自治体・県議会の意見等】

次に関係する自治体の意見についてです。

<松江市の意見>

 立地自治体である松江市の上定市長は、2月15日に、安全協定に基づく事前了解と再稼働を進める政府方針に対する理解を表明されました。

<県内周辺3市の意見>

 出雲市、安来市、雲南市の3市につきましては、4月6日に開催した知事・3市長会議において、島根原発2号機の再稼働を容認するとの意見を、飯塚市長、田中市長、石飛市長から直接お聞きしました。

<鳥取県内2市の意見を踏まえた鳥取県の意見>

 鳥取県につきましては、米子市および境港市の意見等を踏まえた上で、島根原発2号機の安全対策を了解するとの意見を、3月28日に開催した山陰両県知事会議で、平井知事から直接お聞きしました。

<県議会の意見>

 次に、県議会の意見については、さまざまな立場から議論を交わされた上で、5月26日に再稼働を了とすることとされました。

 <中国電力および国に対する要請事項>

 松江市、県内周辺3市、鳥取県側関係自治体、県議会いずれも、再稼働を容認されましたが、中国電力および国に対する要請事項を付されております。

 県としては、これらの内容も踏まえ、今後、中国電力および国に対して、次の事項について要請する考えです。

 (1)中国電力への要請

 中国電力に対しては、(1)審査や検査の状況の適切な説明と丁寧な情報提供(2)常に最新の知見を取り入れた最大限の安全対策(3)過去のトラブル等からの教訓を反映した組織・人員体制、教育・訓練などの充実・強化(4)関係自治体に対する誠意をもった対応-などであります。

 (2)原子力規制委員会への要請事項

 次に、原子力規制委員会に対しては、(1)最新の知見の規制基準への反映(2)設計および工事計画認可などの厳格な審査(3)原子力規制検査の厳格な実施-などであります。

 (3)内閣府への要請事項

 次に、内閣府に対しては、(1)避難計画の住民への周知や、要支援者対策、避難先や移動手段の確保、迅速・確実な実動組織の派遣などの支援・協力(2)原子力防災対策に必要な資機材、施設等の整備や、立地・周辺自治体が行う取り組みに対する十分な財政支援-などであります。

 (4)内閣官房への要請事項

 次に、内閣官房に対しては、(1)他国の領土や主権の侵害を抑止する国際秩序を確立するための国際社会と協調した経済制裁措置の実施(2)武力攻撃が懸念されるような場合の原子力事業者に対する運転停止命令などの迅速な対応(3)万が一、ミサイル攻撃等が行われるような事態となった場合の自衛隊による迎撃態勢と部隊の配備-などであります。

 (5)経済産業省への要請事項

 次に、経済産業省に対しては、(1)核燃料サイクルの課題解決に向けた取り組みの加速(2)原発の再稼働判断に立地・周辺自治体の意見が反映できる仕組みの創設(3)原子力災害時の避難をより円滑に実施するための道路整備等の支援(4)原発への依存度を可能な限り低減するための再生可能エネルギーの導入促進(5)電源三法交付金等の対象地域の拡大-などであります。

 要請事項の詳細は、これまでにいただいた意見を踏まえ、また、関係自治体それぞれの要請内容を再度確認した上で、今後、最終的に決定いたします。

【⑤総合的判断】

 これまでの経過や、主要な論点に対する私の認識等は、以上のとおりであります。

 冒頭に申し上げたとおり、私は、知事就任後に福島県を訪問した際、放射線量が上昇して緊急な撤収を余儀なくされ、事故当時の状態のままが残されていた大熊町のオフサイトセンターや、住民の方々がいまだに避難を強いられておられる帰還困難区域内を特別に視察させていただき、事故当時から時間が止まったような街並みや人家の様子、懸命に復興に取り組まれている方々を間近に拝見し、原子力災害の影響の大きさ、失われたものを取り戻すことの大変さを痛感しました。

 このような福島の状況や、どのような安全対策を行おうともリスクがゼロにはならないことを踏まえれば、原発の再稼働に不安を抱かれる県民の方々がおられるのも当然であり、また、避難対策についても、自然災害とは異なる避難方法などに、不安や疑問を抱かれる住民の方がいらっしゃるのも事実であります。

 不安や心配のない生活を実現するためには、原発はない方がよく、なくしていくべきだと私も考えています。

中国電力島根原発2号機の再稼働に同意したことについて、記者会見する島根県の丸山達也知事=2022年6月2日

 一方で、国が言うように、将来世代のために温室効果ガスの削減を進めながらも、われわれの日常生活や産業を維持していくために必要な電力は、途切れることなく、また、利用者が受け入れられる料金水準で供給される必要があります。

 再生可能エネルギーや省エネのみによる電力供給では、天候等に左右される供給の不安定さや賦課金の上昇による国民負担の増加など、住民生活や地域産業に大きな負担が生じることが懸念されるため、現状では、原発が一定の役割を担う必要があると考えます。

 また、再稼働しなかった場合、雇用を含めた地域経済への影響は大きく、その影響は、リスクや確率ではなく、確実に発生し、避けられません。

 そして、私が判断の際に踏まえるとしていた、県議会、関係自治体の意見は、いずれも再稼働を容認するとの意見でありました。

 私は、この判断を行うために、安全対策協議会、顧問会議、住民説明会にできるだけ参加し、また、関係自治体のトップの方々ともできるだけ直接お会いして、意見をお聞きしました。

 また、国からの説明等で十分ではないものがあれば、直接国へ出向いて内容を再度確認し、令和元年7月と先月22日の2度、島根原発2号機を視察し、重大事故時の対策など安全性について実際に現地で確認してきました。
 

 そして、いただいた意見等の一つ一つを真剣に検討し、再稼働した場合、しなかった場合の両方の視点から熟慮を重ねました。

 その結果、「島根原発2号機の再稼働は、現状においては、やむを得ない」と考え、再稼働を容認する判断をいたしました。

 したがって、県民の皆さまにご不安やご心配が残るものであり、苦渋の判断であります。

 県民が抱かれる不安や心配の原因となっている原子力発電の課題につきましては、島根県として、解決や改善に向けて、最大限取り組んでまいります。

 国および中国電力にも、以上の判断理由を十分に考慮し、原子力発電や避難対策に関する課題の解決や再生可能エネルギーの導入促進を進め、また、島根県、鳥取県および関係市が要請する事項に真摯(しんし)に対応されるよう求めてまいります。

 また、再稼働を容認する判断をした者の責任として、引き続き、中国電力が安全に原子力発電所を運転するよう、その動向を厳正にチェックするとともに、避難対策の向上に取り組むなど、必要な対応をとってまいります。

 県民の皆さまには、今回の私の判断について、御理解を賜りますようお願い申し上げます。