半世紀にわたり養蜂を営む松江市大庭町の広江浩さん(85)が、ミツバチの避暑地となる手頃な山が身近にあって「適地だ」という松江を拠点に養蜂業の裾野を広げている。商売敵に技術を秘密にする例が多い中、技術と魅力を次世代に伝えようと、来る者拒まずの精神で50人以上の後進を育て、今も教えを請う養蜂家が毎日のように訪れている。(森みずき)
かつては身近で蜂を飼う人が多かったため自然と興味を持ち、30代の頃、タクシードライバーとして働きながら始めた。親戚から蜂箱20箱を引き取ったことをきっかけに本格的に足を踏み入れた。
経験を重ねるうちに「これだけやっても分からないことが多く、奥深い世界」とのめり込み、次代に残したいとの思いが強まった。うわさを聞き付けてくる希望者に惜しみなく指導し、松江養蜂組合に入っている30人の大半は教え子だ。
2年前に同組合長を退いた今も、自宅には毎日のように広江さんを慕う養蜂家が訪れ「クリの花は今、どうだ」と花の咲き具合や蜜蝋(みつろう)の活用方法などについて、ざっくばらんに情報交換する。養蜂産業の発展に貢献したとして今春には、日本養蜂協会(東京都)から表彰された。
広江さんいわく「松江は近場に温度が違う場所がある、いい場所」。ミツバチは暑さが苦手なため、夏になれば島根半島部や枕木山に連れて行き、秋になるとソバの花が咲く大根島へと、季節や花の時季に合わせ、市内のあちこちへ拠点を移す。安来市に住む弟子も夏には島根半島に来るという。
広江さんの蜂蜜は熟成具合で差が出る「まろやかさ」が特徴。箱の中のミツバチを多すぎず少なすぎず管理することが重要で「一丁前に覚えるには10年はかかる」と自信を持つ。
自然相手の仕事だけに、梅雨入りが早まってミツバチの動きが鈍るなど近年の異常気象や気候変動にも頭を悩ませている。「これからの若い蜂飼いは大変だ」と気に掛けながら「蜂を大切にしていれば必ず返してくれる」と次世代に知恵を授け、松江に根付いた養蜂が続くように願っている。













