日本社会、とりわけ政府と企業の人権感覚の欠如が国際的見地から厳しく批判された。重く受け止めなければならない。
国連人権理事会「ビジネスと人権」の作業部会が4日公表した声明は、ジャニーズ事務所の性加害問題の調査結果が注目されたが、それだけでなく、日本社会の構造的な差別や人権問題を取り上げ、解決と救済に向けた具体策の実行を迫った。
人権侵害のリスクが高いとされたのは、女性や性的少数者、先住民族、外国人労働者、原発関連労働者、障害者ら。
ジャニーズ事務所前社長のジャニー喜多川氏(2019年死去)による性加害も、多岐にわたる課題の一つ「メディアとエンターテインメント業界」の項目で言及した。
作業部会は、被害者との面談の結果などから「タレント数百人が性的搾取と虐待に巻き込まれるという深く憂慮すべき疑惑が明らかになった」と事態の深刻さを示した。
この問題でジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子社長が動画と文書で謝罪したのは今年5月。だが、喜多川氏の加害行為は「知りませんでした」と述べ「当事者であるジャニー喜多川に確認できない」ことを理由に事実認定を避けた。
作業部会は、ジャニーズ事務所が設置した「再発防止特別チーム」の調査について「透明性と正当性に疑念が残る」と述べた。精神衛生相談を希望する被害者への対応も「不十分だとする報告もある」と指摘した。
作業部会に続いて記者会見した「ジャニーズ性加害問題当事者の会」のメンバー7人は、作業部会が「真摯(しんし)に受け止めてくれた」などと感謝を口にする一方で、ジャニーズ事務所への不信感をあらわにした。代表の平本淳也さんは「ジャニーズ事務所に性加害を認めてもらうことが大前提。その上で謝罪を求めていく」と語気を強めた。
喜多川氏の性加害問題を週刊文春が報じたのは1999年。記事を巡りジャニーズ事務所が起こした訴訟で東京高裁判決が真実性を認め、確定したのは2004年だった。だが、日本の大手メディアは事実上黙殺してきた。
今年3月、英BBCがこの問題を詳報。4月に元ジャニーズJr.のカウアン・オカモトさんが記者会見したことで、多くの市民が知ることになり、日本のメディアも徐々に報じるようになった。この状況について声明は「日本のメディア企業は数十年にもわたり、この不祥事のもみ消しに加担したとも伝えられています」と記述、メディアの責任をも問うた。
メディア側は、放送局を中心にジャニーズ事務所とのつながりが強い。男性の性被害に対する感度の鈍さも、社会全体にあったかもしれない。だが、これほど広範で深刻な被害が続いたとすれば、各メディアに自己検証が求められるだろう。
声明はまた、政府に対し「主な義務を担う主体として、実行犯に対する透明な捜査を確保し、謝罪であれ金銭的な補償であれ、被害者の実効的救済を確保する必要性」があると明言した。
声明の「結語」は具体策の提言である。「不平等と差別の構造を完全に解体することが緊急に必要」だとの認識に立ち、独立の「国家人権機関」の設置を求めた。ジャニーズ問題も含めた人権救済の解決の切り札になるなら、ためらうべきでない。