大麻取締法違反などの疑いで逮捕され、寮を出る日本大アメリカンフットボール部員の容疑者(左)=5日午前、東京都中野区
大麻取締法違反などの疑いで逮捕され、寮を出る日本大アメリカンフットボール部員の容疑者(左)=5日午前、東京都中野区

 日本大アメリカンフットボール部の学生が覚醒剤と大麻を所持したとして警視庁に逮捕された。7月には東京農大ボクシング部の部員2人、今月初めには朝日大ラグビー部の部員3人が、いずれも大麻取締法違反の疑いで逮捕されている。学生スポーツ界の違法薬物汚染が憂慮される事態だ。

 何度も大学日本一に輝いた日大アメフト部は、再建途上での不祥事だ。5年前、日大選手はライバル校の主力選手を意図的な危険タックルで負傷させた。悪質タックルは社会問題化し、勝利至上主義や上意下達の体育会体質が問題となった。

 厳しい処分を受けて再スタートした同部は指導者を公募で入れ替え、下級生でも自由に意見を言えるよう体質改善を図った。厳格な管理から解放された一方で、規律が緩んだのだろうか。逮捕された学生は部の学生寮内に違法薬物を持ち込んだ。

 日大側の対応にも疑問が残る。部員が薬物に関わっているとの情報は昨年の段階で警視庁に寄せられていたという。

 実態調査を求められた大学側は、7月6日に寮内の部屋から錠剤と植物片を発見。ところが警視庁への報告はその12日後と遅れた。

 日大の林真理子理事長ら大学幹部は会見で、警察への報告遅れは「ヒアリングを継続していたため」などと釈明。昨年、学生から大麻のようなものを使用したとの自己申告があり、厳重注意したことも明らかにした。

 国内最多の学生数を誇る日大は、悪質タックル事件に続き、前理事長の脱税事件でも揺れた。昨年、新理事長に日大出身の人気作家、林氏を選出し、傷ついたイメージの回復を目指した。前理事長時代は説明責任から逃げ続けて批判された。新体制の会見でも今回の事件の不可解さは解消しきれていない。

 違法薬物、特に大麻は近年、学生スポーツをむしばみつつある。2020年には日大ラグビー部員、近畿大サッカー部員、東海大硬式野球部員による大麻絡みの事案が発覚した。新型コロナウイルスまん延下で対外活動が減少。寮や自宅に引きこもりがちになった学生選手たち。生活の劇的な変化で薬物に手を染めた、との指摘もある。

 大麻に絡み摘発される若年層は増加している。警察庁によると、22年に大麻関連事件で摘発された約5300人の約53%が20代で、20歳未満と合わせると7割を占めた。大学生、高校生も増えているようだ。

 交流サイト(SNS)などの普及により、ネット経由で大麻を手に入れやすい時代だ。大麻を条件付きで合法化している国もあり、若い世代が抵抗なく接触するリスクが常態化している。

 大学スポーツの統括組織「大学スポーツ協会」は20年、加盟する大学、競技団体に注意勧告したが、事態は改善されていない。指導者や選手に求めた研修は十分に実施されたのか。

 大麻とその関連物質は、スポーツの公正さを守るために禁じられているドーピングの禁止物質にも指定されている。トップレベルの競技力を競う学生選手なら、それくらいの知識は身につけておくのが義務だ。

 成人学生としても、スポーツ選手としても、違法薬物に対する認識が欠如しており、周囲の啓発活動も不足している。学生スポーツ界は今度こそ本腰を入れて、薬物一掃に取り組むべきである。