またも「政治とカネ」の事件である。
秋本真利衆院議員が、洋上風力発電事業を手がける「日本風力開発」側から不透明な資金を受け取ったとされる疑惑で、東京地検特捜部が収賄容疑で議員会館事務所などを家宅捜索、強制捜査に乗り出した。
秋本議員は国会で洋上風力発電の促進についてたびたび質問するなどしており、同社に有利な内容のものも含まれていた。国権の最高機関での審議に関わる問題である。資金提供との関連を、はっきりさせねばならない。
洋上風力発電は政府が脱炭素の実現に向け、再生可能エネルギー普及の「切り札」と位置付ける重要政策だ。そんなテーマで私腹を肥やしていたとすれば許されない。特捜部は押収資料の分析や関係者聴取など丁寧な捜査で解明を急ぐべきだ。
秋本議員は外務政務官を辞任、自民党を離党したが、口をつぐんだままだ。捜査とは別に説明責任を果たすべきだろう。
特捜部がまず詰めなければならないのは、資金提供の事実関係である。日本風力開発側は議員に対する資金提供を否定している。
既に特捜部の任意聴取を受けている社長の弁護士は、検察が利益供与としているのは秋本議員らと出資していた競走馬に関する組合への負担金だと主張。総額は3千万円余りに上るが、賄賂ではないとしている。
特捜部は、組合を実質的に支配していたのは誰なのか、資金の流れと使途、帰属などを客観証拠で裏付ける必要がある。
その上で資金の趣旨を明らかにしなければならない。
洋上風力発電の促進は、2019年に施行された再エネ海域利用法に基づいており、政府が洋上風力の候補となる海域を選定。「準備区域」「有望区域」「促進区域」の順に指定を格上げし、促進区域について事業者を公募する仕組みだ。
日本風力開発は青森県・陸奥湾などでの事業参入を目指しており、陸奥湾は準備区域に含まれている。秋本議員は衆院予算委員会分科会での質疑で、青森県海域での洋上風力に期待を示した上で過度な規制をかけないように要望していた。
また多数の事業者に参入機会を与えるため、事業者公募の際の評価基準を見直すように分科会で求め、政府は実際に基準を変更したことが分かっている。
特捜部には、こうした質問に至る経緯などを明白にしてほしい。
秋本議員は再エネ海域利用法成立直前の18年10月まで1年余り、国土交通政務官を務め、同法制定を後押ししていた。当時の政務官の職務に関しても、厳しくチェックすべきだろう。
もうひとつ、特捜部には捜査手法に関して重要な注文がある。
元法相夫妻の有罪が確定した19年参院選広島選挙区の公選法違反事件で、被買収側とされた元広島市議の取り調べ録音データの存在が表面化。特捜検事が不起訴を示唆して、検察に有利な供述に誘導したことが強く疑われている。
不正を追及する側は、厳正でなければならないことは言うまでもない。
今回の事件では、任意聴取や参考人聴取などに当たって、義務付けられてはいない録音・録画を積極的に実施するなど、検証可能な一点の曇りもない捜査を進めてもらいたい。