
「限界集落みたいなのを勝手にイメージしてましたけど、全然違いました。ちゃんと街があるし人の距離も近くて最高の環境です」。そう語る正木翔さんは現在34歳。兵庫県から隠岐の島町にIターンし、レストランを経営しています。
都会を転々とした20代
「最初から料理人を目指したわけじゃないんです。大学は薬学部で、勉強についていけなくて20歳で中退してコックになりました。父親が洋食の料理人でその影響もあって。当時は他にも理学療法士の専門学校に通ったり、各地を転々としながらいろんな仕事をしましたね」
20代はスポーツバッグ片手に大阪や東京、福岡に移り住み、洋食レストランを中心に働いた正木さん。「でも、だんだん都会が嫌になって田舎に行きたいなあって。そんな時、地元兵庫でたまたま母の友人で隠岐の島出身の方に出会ったんです。そのつながりで地域おこし協力隊を知って応募したんです」
親子で店を開くという夢
地域おこし協力隊を卒業後、レストラン開業に向けて準備をスタート。思い描いたのは両親と切り盛りする地域の洋食店。兵庫県から両親を呼び寄せ、今年3月に『Jackと豆の木』をオープンさせました。メニューに並ぶのはハンバーグやオムライスに唐揚げ……。海鮮など隠岐の島らしいメニューがないのは「子どもが好きな料理が食べられて、近所の人や子ども連れの家族が集える店にしたい」という正木さんの思いから。厨房に立つ父・隆史さんも「親子で店をやるのが夢でした。都会では無理でしたが、ここは金銭面のハードルも低く、何より地域の方が温かく受け入れてくれて」とうれしそうです。

都会と隠岐、人の距離感の違い
移住して6年。正木さんが今感じる島暮らしの魅力とは?
「都会では満員電車で家に帰ってコンビニ弁当食べて寝るような生活で、使い捨ての労働力みたいな気がしました。僕は、給料より自分の時間を大切にしたい方で、こっちに来て完全にそういう生活に変わったんですよね。夜は静かだし、自然と自分の時間ができる。でも一番の良さは人の近さ。この店の物件探しも飲みの席で相談したらすぐ決まったんですよ。隠岐の人はよそもんが嫌いなんだって話している人が、実は逆にめちゃくちゃ世話焼きなことが多い(笑)。スーパーの店員さんとの世間話とかも含めて、何気ない人との付き合いが最高です」

これからは地域への恩返しを
人当たりの良い性格で今や地域の有名人。宝物と言える大切な人や場所も増えたといいます。 「改めて言うのは恥ずかしいですけど(笑)近くの『京見屋分店』さんは大切な場所です。雑貨屋でカフェスペースもあって島内外の人が集まる場所。ふらっと行けば誰かいて、人がつながっていく。自分の店もそんな場所にしたいですね。それが、めちゃくちゃ温かく迎え入れてくれた地域への恩返しですかね」
正木さんのたからもの「人の集まる場所」

「お店の人とも顔見知りになりますし、小さな町なんで、人の温かさやつながりは感じますよね。島民性なのか『こういうことがしたい』って言うと、皆さん応援してくれます。若者が車に困っていたら『買い替えるから、この車やるわ』って平気で言ってくれる人たちで。一方でIターンで来る新しい住人も多いんですけど、数年で島から出る人も少なくないです。できれば島に根付いてもらえたら僕もうれしいですし、昔からの島の人も新しい人も大切にしたいですね。京見屋分店は地元の人と新しく来た人が気軽に集まる場所で、自分もふらっとビールを飲みにいけば話し相手がいる。構えず人とつながって話ができる、そういう憩いの場所は、宝物といえるかもしれないです」
受け入れた側の話
谷田晃さん(京見屋分店 店主)

離島は船や飛行機でしか来ることができないので、わざわざ来てくれた人ばかりなんです。彼もわざわざ隠岐に来てくれて、お店を開いて場所をつくって。昔に比べ飲食店も少なくなってきて、食べる場所の選択肢が増えるのは僕らにとってもうれしいです。最近は地域の祭りや自治会活動も高齢化で成り立たなくなってきましたし、彼みたいな子はかなり頼もしいです。でも、楽しく暮らしてくれることだけで十分ありがたいんです。彼はもうすっかり近所の人って感覚です。ふらっと飲みに来てくれるのが日常ですし、一緒に楽しい時間を過ごして長く付き合っていけたらいいなと思います。

Profile
正木翔さん/兵庫県▶隠岐の島町
1988年大分県生まれ。兵庫県育ち。大学は薬学部に進学するも中退。20歳でレストランに勤務し料理の道へ。2017年に隠岐の島町に地域おこし協力隊として着任しIターン。任期満了後、定住を決めた。飲食店の料理長をしていた経験を生かし、飲食店『Jackと豆の木』をオープン。兵庫県から両親を呼び寄せて家族で店を切り盛りする。
(文:山若マサヤ 写真:七咲友梨)




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