JR西日本が廃止を表明したトロッコ列車「奥出雲おろち号」は、人気の観光列車としての役割が小さくない。穴埋めは容易ではなく、木次線の存続を願う地元に突き付けられた課題を追う。
梅雨の晴れ間となった5月28日午前のJR木次線木次駅(雲南市木次町里方)は、出発に備えるおろち号を撮影する地元住民や鉄道ファンでにぎわった。
JR西日本が2023年度を最後に廃止する計画が明らかになってから初の運行日。
突然の方針に驚き、2年後の運行終了を惜しむ観光客とともに乗車した地元の無職、梅木泰孝さん(73)は「トロッコに乗るために観光客が来て、地域を潤してきた。残してほしい」と残念がった。
根強い人気
おろち号の歴史は27年前にさかのぼる。
沿線人口の減少や自家用車の普及で落ち込む木次線振興の起爆剤にしようと、旧横田町(現奥出雲町)が1994年、同社米子支社にトロッコ列車の投入を要望。同社が関西で使われていた車両を改造して回し、98年に運行を始めた。
日本最大級の二重ループ橋「奥出雲おろちループ」などの絶景を、ガラスのない開放的な車窓から眺められるのが特徴。
同社管内で最も標高が高い駅である三井野原駅(島根県奥出雲町八川)までの高度差約162メートルを、列車が向きを変えながら登る「3段式スイッチバック」も売りとする。
ピーク時の2007~09年度は年間約2万人が乗車。新型コロナウイルスの影響で運休日が多かった20年度は過去最少の約6千人にとどまったものの、コロナ前の19年度は約1万3千人と運行開始当初の水準を確保し、根強い人気を誇る。
年間2000万円
恩恵は沿線の物販や飲食施設に及ぶ。
「まもなくトロッコ列車が参ります」
3段式スイッチバックを上がり、山沿いに走る車両を一望できる道の駅「奥出雲おろちループ」(同)内は通過時間が近づくと、スタッフの声が響く。
道の駅は三井野原駅までの乗車ツアー客が立ち寄るほか、新緑や紅葉の中を駆ける車両を見に来る観光客が多く、4万~5万人の年間入店客数のうち、半数以上が運行シーズンに訪れるという。
藤原紘子駅長(37)は、おろち号の観光資源としての価値の高さを実感しており、廃止に伴う経営面への影響を不安視。「何かしらの形で、おろち号の代わりになるものがほしい」と求める。
奥出雲町が沿線の事業者の売上高や宿泊客の動向を調査した結果、おろち号がもたらす町内への経済効果は年間約2千万円と試算。
運行休止で地域に人を呼び込む力は弱まり、経済的損失が生じるのは避けられない。