ベックは、学生の頃、先輩に勧められて聞いた。渡されたアルバムは「ワン・フット・イン・ザ・グレイヴ」(1994年)。「片足を棺おけに突っ込む」つまり「死にかけている」との意味で、よれよれのフォークだった。その後、手に入れた「メロウ・ゴールド」(同)の帯には「ストイックなまでに無気力」とのコピーが書かれていた。
1曲目「ルーザー」は10代だった自分の心情に強烈にシンクロした。「チンパンジーの全盛期/俺はただのサルだった」との歌詞で始まり、スライドギターとブレイクビーツに乗せて、つぶやくようなボーカルが続き、サビでは「俺は負け犬/殺(や)っちまったらどうだ」と繰り返される。
「メロウ・ゴールド」はフォークともパンクともヒップ・ホップとも分類不能な曲にあふれていた。確信はあるが、完成していない。アイデアを未消化のまま詰め込んだ印象だ。
「俺も発展途上だから、おまえも頑張れ」と勇気づけられた気さえした。すごくシンパシーを感じていたが、96年の次作「オディレイ」は、ぐっとあか抜け、洗練され、グラミー賞まで取ってしまった。これも大好きな1枚だが「おまえ、俺と同じ負け犬じゃなかったのかよ…」と複雑な気持ちになったのも事実だ。(銭)













