東京地検特捜部は知人の新聞記者3人と賭けマージャンをしたとして賭博罪で黒川弘務元東京高検検事長を略式起訴した。週刊誌報道で発覚し、市民団体などが刑事告発。昨年7月、4人とも不起訴処分(起訴猶予)にしたが、一般市民11人で検察による不起訴の当否を審査する検察審査会が黒川氏について「起訴すべきだ」と議決した。

 もともと賭博罪の成立は明らかだったが、特捜部は黒川氏が報道の直後に法務省の調査に事実関係を認めて訓告処分を受け辞職したこと、マージャンの賭け金や頻度が多くないことなど本人に有利な事情を考慮。「一定の社会的制裁を受け反省している」と記者らとともに起訴猶予にした。

 だが昨年12月の検審議決は黒川氏について「検事長の職にあり、刑事罰の対象となる違法行為を自制し、抑止すべき立場にあった」とし、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言中に賭博行為に及び「動機や経緯に酌むべき点はない」と厳しく批判。「起訴相当」と結論付けた。これを受け特捜部は再捜査で黒川氏の立場を重視し、判断を一転させた。

 黒川氏を巡っては、定年延長問題で政治介入の疑念も広がり、法務・検察の信頼は大きく揺らいでいる。今回の対応を例外的なものにとどめることなく、とかく独善的、閉鎖的といった批判の絶えない検察の刷新につなげていく必要があろう。

 官邸に近いといわれた黒川氏について政府は昨年1月、翌月の定年を半年間延長する異例の閣議決定をした。政権に都合のいい人物を夏の検察人事で次期検事総長に据える布石との見方が広がり、野党は「国家公務員法の定年延長制は検察官に適用されない」とした過去の政府答弁と矛盾すると追及した。

 当時の安倍晋三首相は法解釈の変更と説明。内閣の判断で検察幹部の定年延長を可能にする検察庁法改正案が国会に提出された。ところが「政界捜査も手掛ける検察に対する政治介入」とインターネット上に著名人らから批判と抗議がすさまじい勢いで押し寄せた。

 世論の大きなうねりに配慮せざるを得ず、政府は法案成立を断念したが、その直後に週刊誌の報道で黒川氏の賭けマージャンが発覚。検事総長から訓告処分を受け、黒川氏は辞表を提出した。

 懲戒処分ではなく訓告処分にとどめたことに「身内に甘い」との批判もあり、黒川氏の処分を巡り検察内でも議論があったようだ。結局、同種の事案と比べても賭け金は小さく、公務員であることを理由に処罰することはできないとの結論に至り、起訴猶予にした。

 しかし検審議決で「市民感覚」を突き付けられ、その判断をひっくり返した。もう一度、不起訴にしても検審が再び起訴相当と議決すれば、強制起訴となる。問題が長期化し、法務・検察への不信が長引くのは得策ではないとの計算も働いたことは想像に難くない。とはいえ、検察ナンバー2の立場にあった黒川氏の処分で市民感覚を受け入れたのは妥当な判断だったといえる。

 検察は強力な捜査権限を持つ。ただ世間の耳目を集めた事件でも不起訴の場合、捜査で把握した事実はほとんど説明せず、組織運営も見えにくい。国民の信頼あってこその捜査であり、開かれた検察を目指し、不断の見直しが求められよう。