2021年春闘で自動車、電機など主要企業の経営側が賃上げ回答をした。厳しい経済環境の中でトヨタ自動車と日産自動車が満額回答したものの、賃金水準を底上げするベースアップ(ベア)などには不透明さも残る。新型コロナウイルス禍からの本格回復を目指すためにも、改めて継続的な賃上げの努力が必要だ。

 トヨタと日産は満額回答したが、トヨタの年間一時金は前年より0・5カ月分少ない。日立製作所はベアを月額1200円と回答した。電機大手各社はおおむね前年とほぼ同水準のベア千円以上で妥結した。

 連合は今春闘で、ベアの水準を6年連続で月給の2%程度とし、定期昇給分の2%を加えた計4%程度の賃上げを要求する一方、業績の厳しい業種に配慮し、「それぞれの産業における最大限の『底上げ』に取り組む」との姿勢を示した。経団連も企業業績に応じた賃上げを求めた。

 確かに、コロナの感染拡大による不況の下で、企業業績は二極化が強まり、航空や鉄道、飲食、観光などが大きな打撃を受けた半面、電機などは打撃が比較的小さい。

 悪い方の代表である全日本空輸と日本航空は、それぞれの最大労組がベア要求を断念した上に、ボーナスの要求額も前年を大きく下回り、回答時期が見通せない。

 こうした企業の場合、労使ともに企業の存続と雇用維持を優先し、賃金を後回しにするのは仕方ない。しかし今春闘では、業績が悪くない企業でも賃上げが伸び悩んだように見える。さらにトヨタ労使のように賃上げにベアを含むかどうかを明らかにしなかったり、ベア要求を見送ったりする例も相次ぐなど、要求も回答も低調な賃上げ交渉だったと総括せざるを得ない。

 経団連の集計によると、20年春闘での大手企業の賃上げ率は平均2・12%で、2年連続で前年を下回ったが、今年はさらに低下する可能性も否定できない。14年から続いてきた賃上げの勢いが鈍化する恐れがある。

 経済環境が厳しいのは事実だ。コロナ感染の「第3波」により年初に緊急事態宣言が発令された結果、1~3月期の実質国内総生産(GDP)は3四半期ぶりにマイナス成長に陥るとみられる。

 しかし景気の前途には光もほの見えてきた。民間シンクタンク12社の見通しによると、21年度の実質GDP成長率の予測は平均3・9%で、日本経済は21年度中にコロナ前の水準に戻るとの見方が多い。ワクチンの普及で経済が次第に正常化し、以前の安定的な成長軌道に戻るシナリオが想定されている。

 SMBC日興証券の集計でも、3月期決算の上場企業の32・8%が今期の通期純利益の見通しを上方修正した。少し長い目で先行きを見れば、今春闘でも、余力のある企業にはより高い賃上げ回答ができたのではないか。経営側にはもう一段の努力をしてほしかった。

 日本ではバブル崩壊後の長期低迷の中で、経営側が雇用維持を理由に賃上げを抑える流れが続いてきたが、雇用維持と賃上げの両方を追求することは可能だ。今、日本経済に必要なのは、十分な賃上げから個人消費拡大への好循環をつくり、着実な経済成長を目指すことだ。それは企業業績の拡大と人材確保にもつながる。経営者は大きな視野に立つ必要がある。