多くの倉吉市民にとっては、巡り巡ってようやく元の鞘(さや)に収まったという感覚ではないか。

 市立成徳、灘手両小学校の統合に伴う校名の選定が二転三転し、暫定的に「成徳小」になっている問題で、市教育委員会が6日に臨時会を開き、来年度から採用する新校名案を「打吹(うつぶき)」に決めた。

 市教委は10月19~30日、成徳小児童に加え、今後統合が予定される明倫小学校の児童や、校区内で未就学児がいる計349世帯を対象に、事前アンケートで絞り込んだ5案による投票を実施した。有効投票数183票のうち、打吹が約6割の105票を獲得。「打吹山の麓にある学校だから」という理由が多くを占めた。とはいえ、打吹は以前から一番人気だった。

 児童数減少を受け、成徳、灘手、明倫の3小学校の統合が各地区代表によって合意されたのが2021年3月。その後、先行して成徳と灘手を23年度に統合することを決め、21年8月、地域代表や保護者らでつくる学校統合準備委員会が発足。新校名を公募し、寄せられた341件(119案)を基に、「この上ない誠実さ、まごころ」という意味を持つ「至誠」に決めた。

 ところがその後、「打吹」が150件を集め、「至誠」は1件だけだったことが判明。選定のやり直しを求める市民団体の直接請求を受け、「至誠」は白紙、差し戻しに。準備委は「打吹」を推す灘手、「至誠」を推す成徳の両地区委員の思いをくむ形で「打吹至誠」を導き出したものの、今度は市議会臨時会で反対する議員の修正動議が提出され、候補にはなかった「成徳」に決まってしまった。

 混乱の発端は市側の説明不足にある。公募は「投票ではなくアイデア募集。どの案に何件集まったかではなく、委員が思い付かない多様な校名を広く募集することが目的だった」とするが、その狙いを事前に周知できていれば、ここまで混乱を広げることはなかったはずだ。

 市議会にも問題がある。提案した議員は、多くの市民が「打吹至誠」に納得していないと指摘。統合後、既存の成徳小校舎を使うことから、「成徳」とすることで児童、保護者の不安を最小限に抑えられるとした。だが、準備委の協議を無にするような〝ちゃぶ台返し〟で、既存校の名前は使わないという前提も無視しており、委員から「これまでの協議は何だったのか」という批判が出たのは当然だ。

 今回の投票前に成徳、明倫両小で行った説明会で、児童から「三つの校名は使わない約束だったのに、なぜ『成徳』になったのか」という質問があった。ルールを破った大人に不信感を募らせているのだろう。

 そもそも校名を巡っては、当事者である児童や保護者を蚊帳の外に置いて決めようとしたことが間違いだった。最初から実際に通う児童の投票にすれば、もっとすっきりしたはずだ。

 市教委は学校教育審議会を経て、12月定例市議会に校名案の条例改正案を提案する。市議会は児童や保護者の総意として、真摯(しんし)に受け止めるべきだ。

 「打吹」という校名案が元の鞘に戻ったとはいえ、これ以上混乱が繰り返されれば、市や市議会が一度失った信頼を取り戻すのは容易ではない。「覆水盆に返らず」のことわざもある。