新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けた中小企業を支援するため政府系金融機関が実施した実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)などを会計検査院が調べたところ、2022年度末時点で計697億円が回収見込みのない損失として処理されていた。回収不能となりそうな債権も1兆円を超え、損失はさらに膨らむ恐れがある。
その規模によっては国民負担につながる可能性があると検査院はみている。特別貸付制度は20年3月のコロナ対策本部会合で、当時の安倍晋三首相が売り上げの急減で疲弊した個人事業主など中小・小規模事業者を支援するためとして創設を表明。日本政策金融公庫などが融資を開始した。
申し込みが殺到し、受付窓口の対応が追いつかなくなり、地方銀行や信用金庫など民間金融機関でも受け付けるようにした。しかし検査院によると、手続き書類に貸付先の資金繰りの状況を確認したという具体的な記載がなかったり、貸し付けを認める根拠が十分記録されていなかったりしたケースが数多く見られた。損失処理でも、根拠が曖昧なものがあった。
元本返済を最大5年間据え置くなど異例の手厚い措置で積み上がった融資が今、次々と返済時期を迎えている。ところが返済の負担に物価高騰や人手不足が重なり、先の見えない企業が多い。コロナ後の経営再生に向け、政府は支援拡充に本腰を入れる必要がある。
検査院は、公庫などが22年度末までに融資した計約118万件、19兆4365億円について調査した。貸付残高は返済分と損失確定分を除き、14兆3085億円。このうち返済が3カ月以上滞るなど、回収不能のリスクがあるとされる債権が8785億円に達した。破産手続き中など実質的に回収を見込めない債権も1246億円あった。
1兆円を超える債権の回収が危うい。加えて、返済猶予など条件緩和が計5万3921件、6654億円。延滞や破綻も計1万1651件、1195億円に上った。また損失処理済みの697億円のうち少なくとも3億円余りは、事業者の「生活困窮」などの根拠がはっきりしなかった。緊急時の支援で貸し付け手続きの簡素化・迅速化が叫ばれ、全般的に審査が甘くなったのは致し方ない面もある。だが損失については、きちんと検証し、今後の緊急時に生かす必要があろう。
公庫などの融資は今年9月末時点で既に返済が本格化。民間金融機関を通じた融資も、24年度前半に本格化の時期を迎える。そうした中、民間信用調査会社によると、23年度上半期の4~9月、負債額1千万円以上の全国企業倒産件数は前年同期に比べて4割近く増え、4324件だった。
増加は2年連続で、4年ぶりに4千件を超えた。飲食といったサービス業などが3分の1程度を占め、建設業や運輸業の増加も目立つ。10月以降の下半期も緩やかに増加するとみられている。
特別貸付制度で倒産件数がある程度、低く抑えられたのは間違いない。ただ感染が収束した後も、企業には借金が残る。特に客足が戻らない飲食や観光は多くの地域で雇用を支えていることから、倒産が急増するような事態は避けなければならない。新事業で立て直しを後押しするなどの取り組みが、政府や金融機関には求められている。