政府は、経済対策の財源を確保するための2023年度補正予算案を閣議決定した。総花的な施策によって歳出が13兆1992億円に膨張した結果、歳入は8兆8750億円もの新規国債を発行して賄う。歳入の7割近くを国債が占める借金頼みの予算案となった。
財政状態の深刻さが国民の将来不安を増大させており、その立て直しは喫緊の課題であるはずだ。だが予算案からは財政健全化への道筋が見えず、岸田文雄首相の危機感の乏しさを浮き彫りにしたと言えよう。
政府は予算案を20日に臨時国会へ提出し、11月中の成立を目指す。経済対策の目玉は、所得税と住民税を合わせて1人4万円の定額減税で総額3兆円超となるが、来年6月からのため今回の補正には含まれない。
一方で、非課税の低所得世帯を対象とした7万円の給付に1兆592億円が充てられた。食品の値上げなどによる家計の苦境を和らげるため、補正による早期の手当てが必要だ。高値が続くガソリンや電気・ガス代を抑制する補助金の追加分には、7948億円を計上した。
国民生活を脅かす目下最大の問題はインフレであり、これらの対策費はある程度やむを得ない。しかし歳出が膨らんだのは、補正による緊要な予算確保が不可欠か首をかしげるような施策が数多く入ったためだ。
その筆頭が防衛関係費で、装備品取得や施設整備のため8130億円が認められた。反撃能力(敵基地攻撃能力)にも使う国産の長射程ミサイルなどの早期取得費1523億円、鹿児島県西之表市の馬毛島における滑走路整備の2684億円が含まれる。
いずれも政権の重視する防衛力強化の柱だが、このタイミングでの補正による予算化が妥当だろうか。本来ならば、内容の精査や国会審議の時間が十分確保される当初予算案への計上が適切だ。
物価上昇が止まらない現況に照らして疑問なのが公共事業の増額で、補正では約2兆2千億円が追加された。
「防災」「国土強靱(きょうじん)化」をうたうが、建設資材や人件費の上昇に拍車をかける恐れがあろう。物価高への対処を主眼としながら、発想は需要刺激の旧来型対策から抜け出せない矛盾が表れている。
放漫な施策の寄せ集めにより、23年度当初予算と合わせた歳出総額は約127兆6千億円、歳入確保に必要な新規国債は約44兆5千億円に上る。
新型コロナウイルス対策で急膨張した過去3年と比べれば縮小だが、骨太方針で予算を「平時に戻していく」と明記した姿にはほど遠い。補正予算の財源には臨時・緊急時のためにある予備費が2兆5千億円も投入されており、この点も方針には合致しない。
岸田首相は、骨太方針と財政健全化目標の堅持を強調する。ならば、来月まとめる24年度予算案で具体的な姿を見せてもらいたい。首相の覚悟と指導力が問われよう。
主要国で最悪の財政状態にある日本の国債残高は、1千兆円を優に超える。これまでは日銀の異次元緩和で利払い費が極めて低く抑えられてきたが、インフレによりその転換が視野に入る。金利上昇がわが国財政への信認を揺るがすことのないよう、金融政策だけでなく、財政政策も「正常化」へかじを切る時を迎えている。