イスラエル軍が、パレスチナ自治区ガザ北部にある地区最大級のシファ病院に突入した。イスラム組織ハマスに対する掃討作戦だが、病院を戦場にすることは人道上も国際法上も許されない。イスラエルは、少なくとも病院やその周辺での作戦の即時停止を決断すべきだ。
イスラエルと後ろ盾である米国は、ハマスがシファ病院を含む複数の病院と地下にあるトンネルを軍事作戦や人質の拘束に利用していると主張、ハマス側はこれを否定している。
いずれにせよ無謀な軍事行動だ。シファ病院の敷地内には患者や医療従事者、避難民ら計2千人以上が残留している可能性があり、戦闘が始まれば巻き添えは避けられまい。
中東メディアによると、シファ病院では燃料枯渇による電力不足で赤ちゃんを含む三十数人が死亡した。病院には計約180人の遺体があり、埋葬も困難な状況だ。
ハマスが10月7日に行ったテロは言語道断の犯罪行為だ。しかしハマスを積極支援しているわけでもない一般市民がなぜ、死の恐怖に直面しなければならないのか。
イスラエルのネタニヤフ首相が、ハマスのテロでガザに対する無差別攻撃の免罪符を得たと思い込んだとすれば、大きな間違いだ。病院に対する攻撃は国際法上禁じられている。病院敷地内での作戦で多くの巻き添えが起きれば、「精密で標的を絞った作戦」という主張も説得力を失う。
米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は、ハマスによる病院の拠点化などを「戦争犯罪だ」と非難した。この理屈に従えば病院への攻撃も戦争犯罪と見なすべきではないか。
だが、カービー氏は「イスラエルによる病院への空爆を支持せず、病院での銃撃戦も望んでいない」と述べるにとどまった。米国には踏み込んだ言葉でイスラエルの自制を促してほしい。
一方、ハマス指導部側は、実効支配するガザに住む同胞の安全に責任を負っている。同胞の命を犠牲にした対イスラエル闘争の先に勝利は存在しない。停戦に向け、イスラエル人ら人質の即時解放を求める。
戦闘が激化する中、イスラエルが侵攻で目指しているとみられるハマス軍事部門の壊滅は可能なのか、という疑問が急浮上している。専門家の多くは困難だと指摘しており、イスラエルもこの点を自覚した中長期的な方針を定める必要がある。
ネタニヤフ氏は、戦闘終了後について「必要な限り軍がガザの治安を管理する」と語るが、詳細は明らかでない。米国は再占領に反対しており、ブリンケン国務長官は先進7カ国(G7)外相会合で訪日した際「ガザの戦後統治はパレスチナ人の声と願望が反映されなければならない」と述べた。
ガザ当局によれば、戦闘の死者・行方不明は約1万5千人に上る。出口の見えない紛争や戦争が長引くのは、歴史が私たちに教えるところだ。
病院という聖域に軍靴が踏み込んでしまった今、事態が放置されればガザ情勢は悪化の一途をたどるだろう。
米国を中心とした国際社会は、本格的な休戦を何としても関係当事者にのませるとともに、ガザをどのように統治するのかについて構想づくりに急ぎ着手するときだ。