「ファイロリ」の庭園を歩くバイデン米大統領(右)と中国の習近平国家主席=15日、米カリフォルニア州ウッドサイド(ニューヨーク・タイムズ紙、AP=共同)
「ファイロリ」の庭園を歩くバイデン米大統領(右)と中国の習近平国家主席=15日、米カリフォルニア州ウッドサイド(ニューヨーク・タイムズ紙、AP=共同)

 中国の習近平国家主席が訪米し、西部サンフランシスコでバイデン米大統領と首脳会談を行った。台湾問題で対立は残ったが、軍高官同士の対話再開で合意できたのは大きな成果だ。

 二大国の関係は、世界の平和と安定に大きく影響する。対話機運を継続し、緊張緩和から安定的な信頼関係の構築へ向けた一層の努力を双方に求める。

 両首脳は、近く決まる見通しの中国の次期国防相とオースティン米国防長官が会談することで合意した。南・東シナ海地域を巡る両国の緊張関係が偶発的な衝突に発展する事態は、日本の安全保障にも大きな打撃となる。まずは双方の歩み寄りを歓迎したい。

 台湾海峡では、中国軍が軍事威嚇を強める中で、米軍が軍艦や軍用機を派遣し、つばぜりあいを繰り返している。中国は外国勢力が台湾独立を支持したとみなせば武力行使も辞さない構えだ。南シナ海では最近も中国軍の戦闘機が米軍のB52戦略爆撃機に3メートルまで異常接近した。昨年8月、ペロシ米下院議長の訪台で止まった軍対話の再開は喫緊の課題だった。

 一方で、台湾の将来を巡る双方の立場の違いは逆に鮮明になった。習氏は米中関係で台湾が「最も敏感な問題だ」と指摘し、台湾を「必ず統一する」と決意を表明。バイデン氏は記者会見で「一つの中国」政策に変わりはないと配慮をにじませながらも、来年1月の台湾総統選に「介入しないよう警告した」と明らかにした。

 米中の関係には複合的で根源的な対立要因が絡む。既存の覇権国とそれを追う新興国との衝突が戦争に発展する「トゥキディデスのわな」を回避したいのは中国も同じだが、米国側には軍拡を進める中国が同レベルの軍事力を保有する状態は容認できない。

 長い懸案事項の人権問題でバイデン氏は今回、新疆ウイグル自治区などでの改善を求めた。しかし、この問題での干渉を拒否する中国側が応じる可能性は低い。

 経済面でも中国との「デカップリング(切り離し)」は望まないというのが米国の立場ではあるものの、中国が求める半導体の対中輸出規制や追加関税見直しなどで、来年の大統領選挙を控えたバイデン氏に妥協の余地は少なく、首脳会談でも進展はなかったもようだ。

 約4時間に及んだ会談の後、バイデン氏と習氏は会場の庭を並んで散策し、対話ムードの演出に腐心した。だが、多くの対立点を抱えた両者が握手を交わしたのは、相互信頼の証しではない。

 中国は不動産不況などで足元の景気が悪化し米国との関係改善で回復の糸口を探してきた。対する米国側はロシアに侵攻されたウクライナ支援に加え、イスラエルがガザに侵攻し急激に悪化したパレスチナ情勢への対応という二正面作戦が重くのしかかり、中国との対立を激化させる余裕はない。これらの事情と思惑が重なって実現したのが今回の首脳会談だった。

 その意味で真価が問われるのはこれからであり、「世界で最も重要な2国間関係」(国営通信新華社)に課された難題は山積している。両首脳は会談で取り戻した対話機運を安定的な信頼関係につなげるとともに、ウクライナ、パレスチナ問題の解決や気候変動への対応などで、自国利益を超えた視点で解決を模索してほしい。