8月9日、米大リーグのジャイアンツ戦に投打で先発して10勝目を挙げたエンゼルス・大谷翔平。2年連続で「2桁勝利、2桁本塁打」を達成した=アナハイム(共同)
8月9日、米大リーグのジャイアンツ戦に投打で先発して10勝目を挙げたエンゼルス・大谷翔平。2年連続で「2桁勝利、2桁本塁打」を達成した=アナハイム(共同)

 大リーグの大谷翔平選手がア・リーグの最優秀選手(MVP)に選ばれた。2年ぶり2度目の選出で、日本選手の複数回受賞は初めて。日本の打者で初の本塁打王も獲得した。投打の二刀流で野球界の最高峰をまた一歩駆け上った。未踏の領域に挑み続ける異才をたたえたい。

 エンゼルスで6年目の今季は、さらに進化した二刀流のすごみを発揮した。3月にはワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本を優勝に導いた。シーズンでは6月に月間15本塁打、7月にも9本塁打を放ち、8月上旬には早々と10勝目を挙げた。

 春先からのフル回転がたたったのか、シーズン終盤に右肘故障を再発。手術して残り試合を欠場した。それでも打撃は本塁打44、打率3割4厘でリーグ4位、95打点。投手としても2年連続の2桁勝利を挙げた。MVP投票では満票を得る文句なしの成績だった。

 誰よりも遠くへ打球を飛ばし誰よりも速い球を投げる―。ダイヤモンドを駆け抜ける走塁の美しさ。野球の醍醐味(だいごみ)を一人で体現してきた大谷選手を、米メディアも「1シーズンの個人成績としては史上最高だったと言えよう」(ニューヨーク・タイムズ紙)と高く評価している。

 ストイックに野球に取り組む姿勢はチームの同僚たちが証言している。極限まで肉体を鍛え、最新機器を駆使してデータを解析し、一投一打のレベルアップにつなげる。打球の飛距離、投手としての球速、変化球の切れは天性の素質に加えた鍛錬の蓄積から生まれた。大リーグで活躍する日本選手の特徴はMVP1度、首位打者2度のイチロー選手に代表される技術とスピードだった。大谷選手はその両輪にパワーを加味する圧倒的な総合力を発揮した。

 右肘手術により来季は打者に専念し、投手との二刀流での復帰は再来年になるという。それでも来季以降も大谷選手への期待値は高いままだ。シーズン後、どの球団とも移籍交渉ができるフリーエージェント(FA)になった。激しい大谷争奪戦が進行中で、複数年契約で大リーグ史上最高となる総額5億ドル(約750億円)の超高額契約も予測されている。

 選手の価値は金額の多寡だけでは測れないが、年俸は選手の評価値を示す。新たな契約がまとまれば大谷選手は野球界にとどまらず、米プロスポーツをリードする高所得選手になる。岩手県出身の素朴な青年が、日本人アスリートとしてかつてない高みに到達する。

 2度目のMVP獲得が決まっても大谷選手は相変わらず謙虚だった。スーパースターの座についても偉ぶらず、試合中のさわやかな所作と野球を楽しむ柔らかな笑顔は絶えることがない。ファンからも、対戦相手からも愛されるまれな選手だ。

 日本国内の小学校約2万校に子ども用グラブを計6万個、寄贈するという。契約するスポーツ用品企業と提携しての企画なのだろう。社会貢献をさりげなくインスタグラムで公表したところが大谷選手らしい。子どもたちへの「野球しようぜ!」との呼びかけはスポーツ振興の力となろう。

 来季はどのチームでプレーすることになるか。今オフ最大の関心事である。術後のリハビリを乗り越えて、大リーグではまだ経験のない優勝争いに加わってほしい。