出雲坂根駅で「奥出雲おろち号」(左)の到着を待って出発する普通列車=11日、島根県奥出雲町八川
出雲坂根駅で「奥出雲おろち号」(左)の到着を待って出発する普通列車=11日、島根県奥出雲町八川

 人気観光列車のラストランがいよいよ目前に迫ってきた。

 JR木次線(宍道-備後落合)を走るトロッコ列車「奥出雲おろち号」が、車両の老朽化のため23日の運行を最後に26年間の歴史にピリオドを打つ。全国から多くの鉄道ファンらが乗りにやって来る「ドル箱」だけに、利用低迷で存続の危機が取り沙汰される木次線にとっては、大黒柱を失うことを意味する。

 現場の雰囲気はどうか-。チケットは既に完売しており、松江市内から先日、車で足を運んだ。驚いたのが「撮り鉄」と呼ばれるアマチュアカメラマンの多さ。沿線各地でカメラを構えていた。

 目的地は広島県を結ぶ国道314号にかかる日本最大級の二重ループ式道路にある「道の駅奥出雲おろちループ」(島根県奥出雲町八川)。山沿いをゆっくり進むおろち号を眺めることができる展望台には100人余りの観光客や鉄道ファンが訪れ、列車に手を振っていた。

 次に向かったのが、道の駅から北へ約2・5キロ離れた出雲坂根駅(同)。島根県名水百選の一つ「延命水」の泉源が構内にあり、「3段式スイッチバック」の基点としても知られる。隣の三井野原駅(同)はJR西日本管内で一番高い標高727メートルの位置にあり、出雲坂根駅との標高差は約160メートル。この急勾配に対応するため、列車は進行方向を2回切り替え、逆Z型でジグザグに上って行く。JR西管内ではここでしか体験できない。

 終点の備後落合駅(広島県庄原市)から折り返したおろち号が到着すると、待ち合わせていた普通列車が交代で同駅へ向け出発した。この光景が見られるのも23日で最後となる。

 木次線のうち、このエリアを含む出雲横田駅(奥出雲町横田)-備後落合駅間の2022年度の輸送密度(1キロ当たりの1日平均乗客数)は54人で、JR西管内で2番目に少ない。

 JR西は10月、これより少ない区間を含む芸備線の備中神代駅(岡山県新見市)―備後庄原駅(広島県庄原市)間の68・5キロについて沿線自治体と存廃を話し合う「再構築協議会」を設置するよう国に要請した。この区間の基点となる備後落合駅で接続する木次線も同様に利用が低迷するだけに、「芸備線の次はうちか」と関係者は気をもむ。

 JR西はおろち号に代わる観光列車として来年度から「あめつち」を木次線に投入する。とはいえ運行は年間30~40日と、おろち号の3分の1~4分の1程度になる見通し。あめつちは性能上スイッチバックは運行できないとし、出雲横田駅―備後落合駅間は走らない。

 不採算区間を切り離すかのような対応だが、せっかくの観光資源を活用しないのはもったいない。道の駅の藤原紘子駅長は「道の駅の利用客でも木次線を知らない人も多い。時間があれば乗車してもらうようPRしている」と話す。道の駅で駐車して出雲坂根駅まで歩き、延命水を味わって乗車し、スイッチバックを体験することもできる。

 沿線のにぎわいは5年前に廃止されたJR三江線(江津-三次)の終盤に似ている。だが違うのは、木次線の廃止は決まっていないこと。トロッコ列車はなくても、沿線の観光資源を結集してルート化するなど、路線存続へやれることはまだある。