松江市出身の指揮者・伊藤翔さん(41)=東京都在住=は大学生の時に憧れだった小澤征爾さんから指導を受け、留学先のウィーンなどでも折に触れてすごみを感じてきた。小澤さんの死去を受けて山陰中央新報社の取材に応じ「彼が指揮をするとオーケストラの音がまるで変わり、すさまじい一体感に包まれる。魔法のようだった」と振り返った。
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2003年、当時大学生だった伊藤さんはオーディションを経て小澤さんのセミナーを受けた。「呼吸を大事にしなさい」。小澤さんがお手本を見せると、自分たちの時とはオーケストラの音が全く違った。「地鳴りのような、地の底から湧き上がるような音。呼吸や手の動き、音のスピードが完全に一致していた」と思い起こす。
オーケストラが大規模でも、演奏家一人一人とつながっているのが分かり、全体を巻き込むエネルギーがあると感じた。
気さくな一面もあり、伊藤さんが留学先のウィーンで、ウィーン国立歌劇場の音楽監督を務めていた小澤さんと一緒に街中を5分も歩けば、市民から声をかけられた。「音楽に対する厳しさはあるが、にこやかで愛される人」と語る。
世界を渡り歩いた小澤さんには「指揮で納得させる力」があると言う。「間近で見られたのは大きな財産だ。あの時の衝撃は昨日のことのように鮮明に覚えていて、何が一体どうなっていたんだろうと、日々考えている」と伊藤さん。師の息遣いは、いつまでも心に生き続けている。
(小引久実)