衆院島根1区補選の立候補者の第一声を聞こうと集まった有権者たち=16日午前、松江市内
衆院島根1区補選の立候補者の第一声を聞こうと集まった有権者たち=16日午前、松江市内

 「全国的に注目を集めている選挙は静岡と島根だから」

 先日、東京であった会合で地方紙の同業者らと懇談していると、通信社のベテラン記者から声をかけられた。

 静岡は、新規採用職員に向けた訓示が「職業差別だ」と県民らの批判を浴び、辞職願を提出した川勝平太知事の後任選び。川勝氏が静岡工区の着工を認めず、JR東海が2027年開業を断念したリニア中央新幹線の行方に関心が寄せられている。

 そして島根は、きのう告示された細田博之前衆院議長の死去に伴う衆院島根1区補欠選挙。自民党新人で元中国財務局長の錦織功政氏(55)、立憲民主党元職で党県連代表の亀井亜紀子氏(58)が立候補し、28日の投開票に向け激しい選挙戦に入った。

 島根1区が注目を集める理由は、「政治とカネ」問題を受けて同じ日程で行われる東京15区と長崎3区を合わせた3補選で唯一の与野党一騎打ちとなり、結果次第で現政権の命運を左右しかねないからだ。

 その重さを象徴するように選挙戦中盤の21日、自民党総裁の岸田文雄首相が島根入りする。党派閥の政治資金パーティー裏金事件で支持率がさらに低迷し苦境に立つ中、「逆効果だ」と難色を示す地元関係者の声を押し切った格好。相当な覚悟を持っての来県になる。

 同じ21日には、立憲民主党の泉健太代表も島根1区に入る。立民は、3補選のうち島根1区を「天王山」と位置付け、党幹部が次々と島根入りしており、トップ同士の「直接対決」を前に注目度は高まるばかりだ。

 とはいえ、地元有権者の反応は冷ややかに見える。もともと補選は本選挙に比べ関心が集まりにくく、投票率も低くなりがち。3補選の最大の争点は、裏金事件で増幅した政治不信解消の取り組みであるのは間違いないが、地元の有権者にとってはそれ以上に、地域を巡る課題の解決策の方が気になるだろう。

 喫緊の課題が公共交通の維持になる。残業規制の強化によりドライバー不足の深刻化が懸念される「2024年問題」が本格化。既に県内では路線バスの廃止や休止が相次いでいる。

 岡山、広島両県にまたがるJR芸備線の一部区間の存廃を話し合う「再構築協議会」が始まった。利用が低迷する地方鉄道の再編に向け、国が関与して鉄道事業者と地元自治体との協議を進める新制度の第1号だ。芸備線と接続する木次線(宍道-備後落合)も同様に利用が低調で、議論の行方が影響するのは必至。対岸の火事ではない。

 エネルギー問題では、中国電力が8月の再稼働を目指す島根原発2号機(松江市鹿島町片句)の行方が注目される。元日の能登半島地震により、半島部での地震発生時の避難が改めて重要課題として浮き彫りになった。周辺住民の不安は募っている。

 もちろん地方にとっての最重要課題である人口減少や社会保障制度など、取り組むべき難題は山積している。

 立候補の届け出を終えた両候補は第一声で「政治とカネ」問題について言及した。最大の争点ではあるが、静岡県のリニア中央新幹線のように身近な問題でなければ有権者の関心は高まらないだろう。地域再生に道筋を付ける具体的な処方箋を、選挙戦でもっと示してほしい。