短歌 安部歌子選

男物ニットの帽子くれし息子が「かあさん似合う」今日はデイの日 益 田 堀  君子

 【評】「かあさん似合う」の息子の一言がこの一首を温かく包む。デイサービスに向かう母とその母を見送る息子とのさりげない会話に親子の愛情が伝わってくる。簡潔に表現された四句、五句がいい。

白墨で書かれし亡父の農記録壁の片隅に未だ消されず       雲 南 樋口 孝枝

 【評】白墨で書かれた文字を見るたびに蘇(よみがえ)ってくる父。壁の片隅に父は今でも生きている。農記録を消すことは父も消してしまうこと。白墨、壁の片隅な...