4月29日、ソウルの韓国大統領府で会談する尹錫悦大統領(右)と野党「共に民主党」の李在明代表(聯合=共同)
4月29日、ソウルの韓国大統領府で会談する尹錫悦大統領(右)と野党「共に民主党」の李在明代表(聯合=共同)

 劇的に改善した日韓関係が、再び荒波をかぶる前兆になってしまわないだろうか。

 韓国最大野党「共に民主党」の地方組織が4月30日、同党の一部国会議員らが、竹島(島根県隠岐の島町、韓国名・独島(トクト))に上陸したと発表した。

 これに対し日本外務省は「事前の中止申し入れにもかかわらず強行された。到底受け入れることはできず、極めて遺憾だ」として韓国政府に強く抗議。島根県の丸山達也知事も「国際法に基づき平和的解決を求めており、こうした動きは誠に遺憾。日本政府が毅然(きぜん)とした姿勢で対応するよう強く望む」とのコメントを出した。雪解けムードが広がる日韓関係に水を差す行為で、強い抗議は当然だろう。

 この雪解けに向けた尹錫悦(ユンソンニョル)大統領の進め方が、韓国野党には自国側の譲歩に映るようだ。

 今回上陸した議員らは「独島に対する日本の領有権主張は帝国主義の侵略を正当化するものだ」「(尹政権の)一方的な親日行為では日本の領有権主張に対処できない」と主張した。

 その前日には、共に民主党の李在明(イジェミョン)代表が尹大統領との会談で、日本との領土・歴史問題に触れ「国民の誇りが傷つかないよう努力してほしい」と注文を付けていた。昨年5月に続く今回の竹島上陸は、大統領に対する強い警告といえる。

 2022年3月の大統領選で尹氏は、共に民主党の李代表を破って当選した。当時、歴史問題を巡って文在寅(ムンジェイン)政権下で日韓関係が冷え込み、その水準は戦後最悪とも言われたが、最大の懸案だった元徴用工訴訟問題の解決策を昨年3月に発表。シャトル外交の復活など日韓関係を急速に改善させた。ところが、日本重視の姿勢は韓国世論から「一方的に譲歩し過ぎだ」と批判を浴びた。

 尹氏はここに来て窮地に立たされようとしている。韓国国会300議席を争う4月10日の総選挙で、共に民主党と比例代表向けの系列政党が175議席を獲得し、第1党を維持。政権と議会のねじれ解消を目指した尹政権の保守系与党「国民の力」は系列政党と合わせ108議席と大敗を喫した。

 他党を含む野党側は大統領の弾劾訴追が可能となる200議席には届かなかったが、単独で法案を迅速に採決できる180議席以上を確保。国会の主導権を握られたことで尹政権の政策推進力の低下は避けられない。

 この状況を見て思い出すのが李明博(イミョンバク)元大統領だ。親日派として知られ、現在の尹氏と同様、08年の大統領就任直後から米韓同盟強化や日韓関係改善、日米韓協力を訴えていた。ところが任期満了が近づき、政権がレームダック(死に体)化し始めると支持率も急落。国民の愛国心に訴える対日強硬策で求心力回復を図ろうと、12年8月に竹島への上陸を強行した。

 尹氏がすぐに方針を変えることはないだろうが、27年の次期大統領選を見据えて与野党内での権力抗争が高まっていく中、日本との関係が政争の渦に巻き込まれることも予想される。

 日本側にとって歓迎すべき尹氏の「親日志向」が揺らぎ、一転して「反日」にかじを切ることになれば、戦後最悪と呼ばれた日韓関係の再来にもなりかねず、竹島問題解決の糸口も全く見えなくなってしまう。