学生時代、フランス語学習に有用かもと、買ったのがフランスのシャンソン歌手・バルバラ(1930~97年)のアルバムだった。代表曲「ピエール」は雨がしとしと降るのに帰って来ない男を思う内容。暗く平板な歌い回しで読経のような印象だった。一方、歌手紹介の欄には「バルバラは情熱的に歌う」とありイメージが結びつかなかった。
その後にライブ盤のCDに出合うと、激しく動的な歌手だった。そして曲調を静から動へ切り替える際の鮮やかさが劇的だった。
例えばライブ終盤にもってくる曲「Le Mal de vivre(ル・マル・ドゥ・ビーブル)」。直訳で「生きる苦しみ」を意味する。前半はフランス語の滑らかな発音と、よどみない調べに適度な抑揚を交えて聴かせる。一瞬の間の後に突然、鋭いアコーディオンの音一発が入ってからテンポを速め、アコーディオンをしつこく絡ませフィナーレへなだれ込む。
楽器もジャンルも全く違うのに、大胆な切り替えは日本の能楽に通じるようだった。こちらも静的で張り詰めた空気の中、鼓の音で全体が躍動し劇的となる。
歌と劇。バルバラはエディット・ピアフ亡き後、シャンソンを代表する存在だった。圧倒的な歌唱力は記述するまでもないが、歌うというよりは、歌を「演じる」姿が際だっていた。(板)














