2013年7月に島根県津和野町高峯で発生した土石流(島根県砂防課提供) 
2013年7月に島根県津和野町高峯で発生した土石流(島根県砂防課提供) 

 静岡県熱海市で発生した土石流は、県土の7割以上を山林が占める山陰両県でも、いつ、どこの集落を襲ってもおかしくはない。実際に、土石流や土砂崩れは毎年さまざまな規模で起こっており、かつて被害に遭った住民たちは、あらためて事前の話し合いや集落のチェックなど「予防」の大切さを訴える。

 2013年7月に島根、山口県境を襲った記録的豪雨で土石流に見舞われた島根県津和野町の高峯地区。

 一時孤立状態になった水津正さん(73)=津和野町高峯=が熱海の映像を目にしながら「自然災害の怖さを知ったあの時を思い出した」と振り返る。

 裏山からの土石流でトラクターやコンバインといった農機具、自家用車が壊れ、自宅は床上浸水した。町の中心部につながる県道が寸断されたため、近所の人たちと自宅で寄り添い、二晩救助を待った。

 熱海が被害に遭った3日は自治会の定例会があり「自分の命は自分で守る意識を忘れないように」と、早めの判断での避難を呼び掛けた。

 20年7月の豪雨で自宅近くの幹線道路が土砂崩れに遭った江津市桜江町川戸の井上和子さん(76)も「油断できないと痛感した」と話す。当時、周辺は土砂崩れや落石が多発し約90カ所が通行止めになった。

 土砂災害が起こり、人的被害の危険性がある土砂災害警戒区域(イエローゾーン)は、島根県で約3万2千カ所、鳥取県で約6200カ所に及ぶ。このうち4割程度の区域で土石流が発生する恐れがある。

 斜面工学に詳しい技術士の藤井俊逸さん(60)=藤井基礎設計事務所社長=によると、10分間に10ミリを超える強い雨が降った場合、表面の土が濁流となって下流域を襲う土石流の危険性があるという。

 直前に自ら予知することは難しいとして「自分の住宅がどういった場所にあるか把握し、(どの段階で逃げるか)普段から地域で話し合うことが大切だ」と日ごろの備えを勧める。

 出雲市の北山山麓にある鳶巣地区は、イエローゾーンよりリスクが高い土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)も含み、地区自治協会の園山博良会長(73)は「かなり心配だ」と話す。地区内では女性有志が中心となって避難所での必要品をまとめた「非常持出袋」の注文を受けるなど事前準備に余念がない。

 松江、鳥取両地方気象台によると、6日も局地的な大雨が降る見込みで、正午までの24時間予想雨量は島根県で60ミリ、鳥取県で50ミリ。週末まで雨天が続く見込みで、気象庁は土砂災害警戒情報を詳細な地図で確認できるインターネットサイト「土砂キキクル」での確認を呼び掛けている。