歴史小説で花形の時代と言えば、幕末・明治期だ。司馬遼太郎は、その時代を描いて人気を博した国民作家である。大河ドラマをはじめ、テレビでもたびたび取りあげられるその時代の記憶は、虚構を含みつつ、人々に分かち持たれている。

 奥泉光「清心館小伝」(「新潮」6月号)は、その大衆的な記憶に、偽史的想像力で介入する快作だ。小説の舞台は、幕末江戸の清心館。ユニークな教義...