菅政権が、東京への新型コロナウイルス緊急事態宣言の発令へ追い込まれた。想定外の感染者急増により、まん延防止等重点措置延長で乗り切れるとの戦略はあえなく崩壊。「第5波」への懸念が強まる中、リスクを抱えて東京五輪期間に突入する。専門家はインド由来のデルタ株の脅威や夏休み期間中の地方への感染拡大に危機感を訴える。都内の五輪会場は無観客の方向となり、菅義偉首相がこだわった「観客入り五輪」も崩れ去る可能性が大きくなった。
「万全の態勢で対応していく」。7日夜の官邸。首相は厳しい表情で、東京の感染再燃の抑止に全力を挙げる決意を記者団に示した。
首相は6日までは、五輪の主会場がある東京について、重点措置継続でしのぐ方針だった。4度目の宣言発令に踏み切れば、「無観客も辞さない」とした自身の発言通り、「観客なし」が現実のものになるためだ。
デルタ株拡大への懸念も膨らむ。「増加ペースが速すぎる」。首相は周囲にこう繰り返して警戒感を高めてきたが、その首相の見立てをはるかに上回るリバウンド(再拡大)の速度となった。
7日の都の感染者は前日の500人台から一気に増えて900人超。「ワクチン接種の加速化で、感染の伸びを相殺できる」(政府高官)との甘い見立ては消し飛んだ。
官邸内では「8月中旬になれば、ワクチン効果が出てくるはずだ」と望みを託す声が大勢を占めていた。だが東京の感染状況はそれまで待てない事態に悪化。官邸幹部は「ここまで数字が跳ね上がれば、宣言発令に迷う必要もない」とあきらめるしかなかった。
だが宣言を出しても効果があるかは見通せない。重点措置の下、飲食店の酒類提供規制や夜間の人出抑制の要請を続けてきたが、徹底できず、効果が十分でない実態が突き付けられたからだ。政府は宣言下の地域で、酒類提供を原則停止とする方向で調整。働き掛けを強める方針だが、官邸筋は「協力を徹底させる妙案はない」とうめく。
「五輪がなくても感染が拡大している」。新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長は7日の国会審議で、感染状況について焦りをあらわにした。同時に、五輪は無観客が望ましいと改めて強調した。小池百合子都知事は尾身氏と会談。終了後「状況はとても厳しい」と記者団に語った。
首相は「ワクチン一本」で第5波を抑え込む構えだが、専門家の分析が待ったを掛ける。
東京大の仲田泰祐准教授らのチームは、ワクチン接種の進行状況を踏まえ、今後の東京の感染者数を予測。英国株と比べた感染力が、ほかの研究機関による推定とほぼ同等の1・3倍または1・2倍の場合、7月下旬には1日当たり千人を超え、宣言発令が必要になるとの結果になった。京都大のチームも7月半ばに1日当たりの感染者数が千人を超え、宣言などの強い対策を取らなければ月末に2千人に達する恐れがあると指摘する。
東京では40~50代の重症者が増えており、医療現場の負荷が高まる恐れがある。厚生労働省に新型コロナ対策を助言する専門家組織のメンバーからは宣言に関する意見が相次いだ。メンバーに名を連ねる専門家は「東京で1日の感染者が千人を超えて増えていくなら、五輪に関係なく出すべきだ」として、発令方針を当然視した。













