山陰中央新報社の石見政経懇話会、石西政経懇話会の定例会が18、19日の両日、浜田、益田両市であり、宗教と社会について考察する住職、ジャーナリストの鵜飼秀徳氏(50)が「あなたの街からお寺が消える~人口減少時代のムラとイエのかたち~」と題して講演した。要旨は次の通り。
寺院が約1300カ所ある島根県は、人口10万人当たりの寺院数が滋賀県、福井県に続いて全国の都道府県で3番目に多く、人口減少が進めば、空き寺が増える懸念がある。
空き寺の問題は、宗教法人に税金がかからないことを悪用し、税金逃れのためにマネーロンダリング(資金洗浄)に使われることやカルト宗教に乗っ取られる可能性があることだ。長崎県対馬市の寺院では仏像が盗まれる被害もあった。
無住状態の大田市の浄土宗金皇寺は国有化された全国初の事例。寺は住職の死亡と後継者不在で、檀家(だんか)も20軒ばかりで存続が困難だった。海外のブローカーが寺を買収し、産業廃棄物の仮置き場にしようとする動きもあり、浄土宗は全日本仏教会と協力して「処分されない財産は国庫に帰属する」と定めた宗教法人法を根拠に国と交渉。所有権を国に引き渡した。
政教分離の原則から、災害に遭っても、寺は公的支援を受けられないのが現状だ。そのような中、寺の再生を果たした希少な例が秋田県の男鹿半島にある雲昌寺だ。15年かけて育てた一帯のアジサイがネットで話題になり、拝観者が殺到した。土産物店や結婚式プランの事業も進み、地域に雇用と収益をもたらした。
寺院の再生は難しい。しかし、アイデア次第で活用法はあると考える。アイデアが増えるほど地域創生の道が開けるはずだ。まずは一人一人が地元の寺に関心を持つことから始めてほしい。
(宮廻裕樹)