アルバム「アップフロント」
アルバム「アップフロント」

 5月に亡くなったジャズ・フュージョンのサックス奏者デビッド・サンボーンは、「泣きのサンボーン」と言われる情感たっぷりの演奏で人気を集めた。個人的にはファンク色の強い軽快な作品が好きで1992年のアルバム「アップフロント」が最高傑作だと思う。サンボーンを聴き始めた大学時代に発売され、収録曲「スネイクス」は今もよく聴くお気に入りだ。

 この曲はイントロのベースがわくわく感をそそり、オルガンがファンク感を高める。テーマのメロディーを繰り返した後のソロでサックスが熱く歌う。むせび泣くような音色がいい。

 このアルバムは良い曲がそろう。「ランブリン」は、ジャズサックス奏者オーネット・コールマンのもっさりした原曲を軽快にアレンジしており、かっこいい。

 「フルハウス」ではロックギター奏者エリック・クラプトンと共演する。「ヘイ」はファンクロックバンドのINXS(インエクセス)の曲「ニュー・センセイション」を思わせるイントロが印象的だ。

アルバム「ハイダウェイ」


 サンボーンに興味を持ったのは、大好きなジャズベース奏者ジャコ・パストリアスの76年のアルバム「ジャコ・パストリアスの肖像」に参加していたから。ファンクな収録曲「カムオン・カムオーバー」で短いソロがあり、泣きのサンボーンの片りんを見せる。最初に手にしたサンボーンのアルバムは79年の「ハイダウェイ」。軽快な収録曲「エニシング・ユー・ウォント」が気に入って当時は車の中でよくかけていた。

 ジャズ・フュージョンに限らず、さまざまなミュージシャンのアルバムに参加し、ライブでの共演も多い。特に面白いのが、前衛的なジャズサックス奏者ジョン・ゾーンとのテレビ番組での共演だ。曲は、ゾーン率いるバンド、ネイキッド・シティの「スナッグルパス」。めちゃくちゃに吹いているだけとしか思えないが、こんな演奏もするんだと驚いた。ネットで動画を見つけたが、CD化されていないようで残念。

 しみじみ系の曲はあまり聴かないが、好演はある。例えばジャズ編曲者ギル・エバンスの74年のアルバム「プレイズ・ジミ・ヘンドリックス」の収録曲「エンジェル」。ロックギター奏者ジミ・ヘンドリックスの名作バラードのカバーで、サンボーンが参加していて歌の部分を奏でる。緩急が巧みで、しゃくり上げるような吹き方も面白い。

 もともとソウル歌手レイ・チャールズに憧れ「サックスでレイのように歌いたい」と考えていたらしい。その歌心が魅力なのだ。
  (志)