マイクに向かい熱唱する表情を撮ったジャケットが印象的だ。魅惑のハスキー・ボイスで「ニューヨークのため息」と称された白人女性、ヘレン・メリルの名盤。ジャズ入門雑誌で必ず推薦盤に挙げられる。ある評論家が、コーナーポストに額を打ち付けられた女子プロレスラーのようだと書いた本を読んだ時、思わずうなずいてしまった。
1954年12月、彼女24歳の時の録音で、収録の全7曲を自らレパートリーの中から選んだという。中でも、2曲目の「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」は超有名だ。
アルバムの魅力は、同い年の名トランペッター、クリフォード・ブラウンの歌心あふれる音色と、クインシー・ジョーンズの編曲によるところが大きい。当時まだ21歳のジョーンズだったが、既に優れた才能の一端がうかがえる。
記者がジャズを聴きだしたのも、約20年前に安来のジャズマニア宅でこのアルバムをアナログレコードで聴いたのがきっかけ。古さを感じさせない録音とアナログの音の良さを再認識したからだ。
記者は当時、持っているレコードをCDで買い直していた。しかし、アナログで聴く彼女の声、トランペットを吹くブラウンの口、指の動きは生々しく、音に実在感があった。その特徴は、3曲目の「ホワッツ・ニュー」によく表れている。(土)