豪州出身のバンド、デッド・カン・ダンスのダークな音楽は一種の儀式だ。ボーカルのリサ・ジェラルドの呪文のような詠唱が妖しさ満点。よく並び称される英国のバンド、コクトーツインズのエリザベス・フレイザーの歌声が「天使」とすれば、リサは「巫女(みこ)」か。名曲「ユルンガ」を聴いてみるといい。
1993年のアルバム「イントゥ・ザ・ラビリンス」に収められた7分ほどの曲で、重々しく厳かに始まり、聴きどころは3分辺りから。マラカスのシャカシャカ音に続き、中東風のメロディーや野性的な太鼓に乗って「ヘイヘイヘイヘイ、ヘイヘイヘイヘーヤ、ヘヘヘヘヘーヤヘーヤ…」と詠唱が繰り広げられる。怪鳥の鳴き声(?)も交じり、密林の奥地での秘儀が目に浮かびそうだ。
84年のアルバム「エデンの東」の収録曲「フロンティア」を聴いて気に入った。パプアニューギニアの神話を題材にした漫画家・諸星大二郎の名作「マッドメン」を思わせる曲。鈴のシャンシャン音と野性的な太鼓に乗り、地の底から響くようなリサの歌が展開される。この頃はダークなロックで、リサは英語の歌詞を歌っており本領発揮ではないが雰囲気は共通する。

呪文っぽい歌い方を確立したのは87年のアルバム「暮れゆく太陽の王国で」だろう。収録曲「キャンタラ」が特にいい。「ユルンガ」と同様な構成で、もの悲しいメロディーで始まり中盤、太鼓が入ってから盛り上がる。この曲ではリサは高い声で詠唱する。
持ち味が堪能できるのは94年のライブ盤「トゥワード・ザ・ウィズイン」。「キャンタラ」はスタジオアルバム収録のものより、こちらがお勧めだ。詠唱の内容が少し違い、即興かと思わせる。終盤はリサの神懸かり具合がすごい。天岩戸の前で踊った日本神話の女神アメノウズメは、おそらく、こんな感じで歌ってもいたのではないかと想像が膨らむ。
スタジオアルバムに収録されていない曲もいくつかある。「ラキム」は、リサが奏でる中国の打弦楽器・揚琴がよく味わえる。「ペルシアン・ラブ・ソング」は楽器演奏はなく、リサのうなり声のような歌だけ。カナダのバンド、デレリアムはこのリサの歌声をサンプリングしてダンスビートと組み合わせ「フォーガットン・ワールド」という曲を作った。ポップで聴きやすく良い曲に仕上げているのだけども、その魅力はリサの歌声によるところが大きいのだと、あらためて気づかされる。
(志)