ノーベル賞(しょう)と聞いて、すごい賞だとは知っていても、「何だか難(むずか)しそう」と思っていませんか? 過去(かこ)に受賞した研究成果を見ると、みなさんの生活に身近なものがたくさんあるんですよ。
人類に貢献した人
ノーベル賞はダイナマイトを発明したスウェーデンの化学者アルフレド・ノーベルさんの遺言(ゆいごん)にもとづき、1901年から「人類に最も貢献(こうけん)した人」に贈(おく)られています。遺言に書かれた物理学、化学、生理学・医学、文学、平和の5分野に加え、68年には経済(けいざい)学に対する賞も作られました。
中でも物理学、化学、生理学・医学の3賞は、科学分野で世界最高峰(さいこうほう)の権威(けんい)をほこるといわれます。例えば、人間の血液(けつえき)にAやBなどの型(かた)があることを発見したのはオーストリアの病理学者カール・ラントシュタイナーさんで、30年に生理学・医学賞を受けました。また、今年新しくなった紙幣(しへい)に偽造防止(ぎぞうぼうし)のため使われているホログラム技術(ぎじゅつ)や、新型(しんがた)コロナウイルスの検査(けんさ)で有名になったPCR(ピーシーアール)技術、携帯(けいたい)電話に欠かせないリチウムイオン電池、暗やみを照らす発光ダイオード(LED(エルイーディー))ライトも全て、ノーベル賞の受賞研究です。
候補者、日本にも
最先端(さいせんたん)の研究が世界中で進められる中、日本にも現在(げんざい)、睡眠(すいみん)の仕組みを研究している筑波(つくば)大学の柳沢正史(やなぎさわまさし)さんや、世界最強の永久(えいきゅう)磁石(じしゃく)「ネオジム磁石」を開発した大同特殊鋼(だいどうとくしゅこう)の佐川真人(さがわまさと)さんら、受賞が期待(きたい)される注目の候補者(こうほしゃ)が数多くいます。
ただ、科学技術の研究がもたらす「人類への貢献」に、国や地域(ちいき)は関係ありませんよね。毎年、受賞者の発表は10月、授賞式(じゅしょうしき)はノーベルさんの命日の12月10日です。どんな研究に光が当たるのか、楽しみですね。
(本田隆行(ほんだたかゆき)・サイエンスコミュニケーター)
夫婦や17歳での受賞も
受賞自体がとても貴重(きちょう)なことであるはずのノーベル賞。でも、過去には、夫婦(ふうふ)での受賞や、親子でそれぞれが受賞するといったさらにおどろくべき人たちもいました。
ノーベル賞を女性(じょせい)で初めて受賞したポーランドの科学者マリー・キュリーさんは、1903年に放射線(ほうしゃせん)の研究で夫ピエールさんとともに物理学賞を受けたほか、夫が亡(な)くなった後の11年にはラジウムとポロニウムという元素(げんそ)の発見で化学賞にも輝(かがや)き、初の2度のノーベル賞受賞者となりました。娘(むすめ)も放射線研究にはげみ、35年に夫婦でノーベル化学賞に。ちなみに2度受賞した人はこれまで5人いるそうです。
他にも、59年平和賞のイギリスのフィリップ・ノエルベーカーさんは、20年アントワープ五輪の陸上男子1500メートルで銀メダルを獲得(かくとく)したアスリートですし、2014年に17歳(さい)で平和賞を受賞したパキスタンのマララ・ユスフザイさんは、ノーベル賞全体を通じて最年少の受賞者です。
作者略歴
ほんだ・たかゆき 鳥取県三朝(みささ)町出身で、1982年生まれの「科学とあなたをつなぐ人」。神戸(こうべ)大学大学院時代の専門(せんもん)は地球惑星(わくせい)科学でした。日本科学未来館勤務(きんむ)を経(へ)て国内でもめずらしいプロのサイエンスコミュニケーターとして活動中。