プロジェクト参加者と話しあう滝浪実セルジオさん〓(?)出雲市大社町中荒木〓(?)
プロジェクト参加者と話しあう滝浪実セルジオさん〓(?)出雲市大社町中荒木〓(?)
プロジェクト参加者と話しあう滝浪実セルジオさん〓(?)出雲市大社町中荒木〓(?)

 人は支え合い、助け合って生きている。事業が目指すのはグローバルな農園。さまざまな国の人が農業という共同作業を通して互いの文化を学び合うことで、新たなモノやコトも生まれる。日本とブラジルを理解し、両国の懸け橋となる人材も自然に育つと考える。 人口が約17万5千人の出雲市では、3千人以上のブラジル人が暮らす。多くが市内の電子部品製造会社の雇用拡大を受け、家族とともに移住してきた。そのうち、約3割が同市での定住を望んでいるといわれる半面、言葉の「壁」から、就職先が限られる。

 こうした状況に対し、同国出身者らでつくる「イズモ・アグロブラジル」(出雲市渡橋町)が2020年6月、農業による同国出身者の自立支援に立ち上がった。日系ブラジル人の滝浪実セルジオ代表(66)は「栽培した野菜を販売することで、所得向上や地域に溶け込むことにつながる」と意欲を燃やす。

 ブラジルの家庭料理が楽しめる飲食店「PASTELARIA PAIZAO(パステラリア パイザウ)」(出雲市渡橋町)のオーナー。ブラジル出身者の良き相談役として知られる。来日前も農業にかけた先祖の志を受け継ぎ、約500ヘクタールでトウモロコシや大豆、米などを栽培した経験を持つ。

 「イズモ・アグロブラジル」は、同市の地域課題でもある耕作放棄地を借りて同国出身者に貸し、農業に携わってもらう事業に取り組む。「最初は貸してくれる人がいなかったが、最近は理解者が増えてきた」と活動の成果を挙げる。

 日系の20~60歳代の約20人が参加し、寒暖差や害虫対策に向き合い、同市大社町を中心に約2ヘクタールの畑で、キャッサバ(芋)やフェイジョン(豆)のブラジル野菜を露地栽培し、ハウスでケールやクレソンを育てる。できた野菜は「PASTELARIA PAIZAO」や市内の量販店で販売。今年はキャッサバ1・5トン、フェイジョン500キロ程度の収穫を目指す。

 以前、電子部品製造会社で働いた後、仕事がなくなりふさぎ込んでいた若者も加わり、笑顔で頑張る姿に背中を押されている。自分たちが丹精込めた野菜が市民の食卓に上ることは、参加者の自信につながる。

 「基幹産業に位置づけられる出雲の農業は魅力的」と捉え、マンゴーや南米原産のピタンガ、ジャボチカバといった果樹のハウス栽培の準備も進める。借用農地を増やし、日本人を含む雇用創出を目指す。

 多文化共生を推進する出雲市の方針に共感し、ブラジル人に次ぎ約400人のベトナム籍住民も参画できるよう、ベトナム野菜の栽培も計画する。「農業を通じて、多文化共生から生まれた出雲の新たな魅力が発信できればうれしい」と見据える。

(出雲総局ひらた通信部・松本稔史)

  =隔週日曜日に掲載= たきなみ・みのる・せるじお 1954年、ブラジルのパラナ州生で生まれる。出稼ぎのため92年に来日。兵庫県で製造会社勤務などを経て2014年に出雲市に拠点を移した。市内で暮らすブラジル人を支援するNPO法人ブラジル・サポートセンター副理事長も務める。出雲市渡橋町。