どの家庭にもある身近な氷。その性質(せいしつ)はとても不思議です。
0度を下回る
水が凍(こお)り始める温度は、みなさんご存(ぞん)じの「0度」。でも、家の冷凍庫(れいとうこ)に入っている氷の温度は何度でしょうか? 「氷なんだから、そりゃ0度でしょ」と思いきや、実はちがいます。
たしかに、水は凍り始めてから完全に凍るまでの間、ずっと0度です。しかし、完全に凍って氷になると冷凍庫の中ではその温度はさらに下がり、やがて冷凍庫の中と同じ温度になります。
ただ、水をゆっくり静かに冷やした場合、0度を下回っても凍らずに液体(えきたい)のままの状態(じょうたい)が続くことがあります。これを「過冷却(かれいきゃく)」といいます。過冷却の水に衝撃(しょうげき)を与(あた)えると、水が凍る瞬間(しゅんかん)を観察することができますよ。
気体へ変化
そういえば、冷凍庫に入れていた氷をひさしぶりに見ると、とけたわけでもなさそうなのに小さくなっていることがあります。これは、固体が直接(ちょくせつ)気体へと変化する「昇華(しょうか)」という現象(げんしょう)によるものです。冷凍庫の中というのは、霜(しも)がつかないように湿度(しつど)が低く保(たも)たれています。氷の表面もかわいてしまい、ドライアイスのように、直接(ちょくせつ)水蒸気(すいじょうき)へと変化し、氷も少しずつ小さくなるのです。
他にも、凍らせたお茶やジュースを飲むと、始めは濃(こ)いのに最後の方で薄(うす)く感じた経験(けいけん)はありませんか? 水は、凍る時に不純物(ふじゅんぶつ)を押(お)しのけて水だけ凍ろうとする性質(せいしつ)があります。ほぼ水の部分から凍っていくので、最後には不純物が濃く残った氷ができます。「濃かったり、薄かったりするのは嫌(いや)だ!」という人は、不純物を押しのけて凍る隙(すき)をあたえないように、できるだけ一気に凍らせるのがおすすめです。
(本田隆行(ほんだたかゆき)・サイエンスコミュニケーター)
透明な氷の作り方 空気入れずゆっくりと
冷凍庫で作る氷は、少し白っぽいですよね。でも、スーパーで売られているロックアイスや、氷屋さんが作る真四角の氷は、透明(とうめい)でとてもきれい。ちがいのひみつは、中に入っている小さな空気の泡(あわ)です。今回はどうにかして透明な氷が作りたいという人に、透明な氷の作り方を紹介(しょうかい)します。
こつは、水の中に空気を入れないことと、できるだけゆっくりじわじわと凍らせることです。
手順はこうです。水を沸騰(ふっとう)させ、冷ましてから深めの容器(ようき)にゆっくり入れます。その容器はタオルで包んだり、発泡(はっぽう)スチロールに入れたりして、冷凍庫へそっと入れましょう。水が完全に凍りきってしまう前に取り出し、残った水は捨(す)てます。
見た目だけでなく、氷のかたさも変わります。普段(ふだん)の白っぽい氷と透明な氷を、それぞれガリッとかじってみてください。透明な氷の方がかたく感じるはず。小さな泡の存在(そんざい)は、氷を少しやわらかくもしているのです。
略歴
ほんだ・たかゆき 鳥取県三朝(みささ)町出身で、1982年生まれの「科学とあなたをつなぐ人」。神戸(こうべ)大学大学院時代の専門(せんもん)は地球惑星(わくせい)科学でした。日本科学未来館勤務(きんむ)を経(へ)て国内でもめずらしいプロのサイエンスコミュニケーターとして活動中。