老人ホームで入居者の財布から現金1万円を盗んだとして窃盗罪に問われた松江市の介護士の男性の被告(45)=肩書は起訴時=の判決公判が10日、松江地裁であり、芹沢俊明裁判官は、置き忘れや紛失の可能性があり、被害者の証言の信用性に疑いが残るなどとして、無罪を言い渡した。求刑は懲役2年だった。

 起訴状などによると、2024年8月7日午前4時40分ごろから同5時45分ごろまでの間、勤務していた松江市内の老人ホームの居室内に複数回入り、入居していた男性の現金1万円を盗んだとされる。この間、居室に出入りしたのは被告のみだった。

 入居者が午前4時ごろに入浴した後、財布の中に1万円札1枚と5千円札1枚があるのを確認したが、朝食前に1万円札がなく、5千円札1枚が残っていたという証言の信用性が主な争点だった。

 被告は一貫して否認。検察側が「入居者の証言は施設長の証言や客観的証拠と一致し、信用できる」などと主張していた。

 芹沢裁判官は判決理由で、置き忘れや紛失などの可能性があると指摘。入浴後、財布に1万5千円があったという証言も「信用性に疑いが残る」とした。被告が、入居者が居室を出た後も室内にとどまった行動は、現金を持ち出した以外の可能性もあるとして、証言の合理性を高めるとはいえないとした。

 松江地裁での無罪判決は24年7月以来となる。被告の代理人弁護士は「正当な判断だと思う」と話した。松江地検の金浦健次次席検事は「判決内容を精査し、適切に対応したい」とコメントした。

(小引久実)