地方最低賃金審議会で出た労使の主な意見
地方最低賃金審議会で出た労使の主な意見
国の目安通り28円の引き上げを答申した神奈川県の地方最低賃金審議会=4日、横浜市
国の目安通り28円の引き上げを答申した神奈川県の地方最低賃金審議会=4日、横浜市
地方最低賃金審議会で出た労使の主な意見
国の目安通り28円の引き上げを答申した神奈川県の地方最低賃金審議会=4日、横浜市

 本年度の最低賃金は全都道府県で時給800円を超し、大幅増となった。各地の審議会で経営者委員から「企業の痛みを分かっていない」と異論が続出。労働者、公益両委員が大幅引き上げを支持し、賛成多数で覆らなかった例が目立った。与党からも増額が性急だと疑問が漏れる。労働界は賃上げを評価するが、解雇など雇用縮小を警戒。新型コロナウイルス禍の中、大胆とも言える経済政策は奏功するのか―。

 「厳しい状況で我慢の限界。大幅引き上げは雇用維持に必死に頑張る経営者の心をくじく」。神奈川県の地方最低賃金審議会で4日、経営者委員は飲食、宿泊業などの窮状を訴え抵抗した。

 中央最低賃金審議会(厚生労働相の諮問機関)は7月、過去最大の上げ幅28円増の目安を答申した。中央、地方審とも、経営者、労働者両委員と、有識者らによる公益委員の3者構成。地方審は、公益委員が国の目安に沿う額を提示することが多い。神奈川は28円増の1040円を示し、経営者委員5人が反対したが、公益、労働者両委員計9人が賛成に回り、決した。

 東京都の地方審は7月21日、経営者委員が「雇用維持を要請しながら、過去最高増額は政策的矛盾」と批判し、強い反対を表すとして採決に際し退席、棄権した。結果は賛成多数で28円増の1041円。経済団体筋は多数決が主流の地方審の仕組みを挙げ「反対意思表示が精いっぱい。数で負ける」と語る。

 目安を超す32円増で824円の島根県は、経営者委員は反対したが「若者が県外流出しており、近くの広島や岡山との賃金格差を縮めたい意識も反映した」(担当者)という。秋田県は公益委員が「人口減少による地域経済縮小が懸念され、若年層流出に歯止めをかけ労働力人口を確保する」などと30円増の822円を提示し、決まった。

 都内でコンビニを経営する男性(32)は、都の現行最低賃金1013円で雇うアルバイト2人で24時間を回す。本年度増額で年間約50万円、約10年前と比べ400万円以上の人件費増の計算。「根拠も分からず毎年上がる」とため息をつく。

 一方、全労連幹部は「生活水準向上へ最低賃金増は必要。企業が解雇や時短など労働者に矛先を向けるのは許されない」と強調。別の労組幹部は「賃上げ自体は評価できるが、もっと上げないと人間らしく生活できない」と話す。

 都内在住の契約社員の女性(50)は勤務シフト減を懸念。近年の最低賃金増の流れで時給は増えたが、勤務時間短縮で月収約15万円はほぼ同じ。「貯金もできない。理想は時給1500円だが少なくとも1200円ぐらいに」と話す。

 「企業が(社員を)解雇したり倒産したりすることは、あってはならない」。自民党の下村博文政調会長は8月6日、記者団に述べた。これに先立ち加藤勝信官房長官に、企業支援強化を求める党提言書を手渡した。

 政府は7月に雇用調整助成金の特例措置延長など支援策を発表した。与党ベテラン議員は「パンチ不足。企業の怒りは消えず次期衆院選を戦えない」と語る。ある自民党幹部は引き上げ論者の菅義偉首相を念頭に「なぜ増額を急ぐのか」と中小企業の離反を危ぶむ。

 日本総合研究所の山田久主席研究員はコロナ禍を踏まえ「労使対立が激しく歩み寄りができておらず、最低賃金を順守できない企業が出てくる恐れもある。制度自体が限界に来ており見直す必要がある」と指摘した。