停滞する前線がもたらす大雨の影響で、広島県と島根県西部を流れる江の川が14日、各地で氾濫した。中・下流域の島根県内では江津市、川本、美郷両町内の6カ所で道路、住宅や農地に水があふれ出した。流域は2018、20年に続き4年間で3度目の水害。高台への集団移転を決めたばかりの美郷・港地区をはじめ、対策を打っているうちに起こる度重なる浸水に、被災者はやり場のない憤りをぶつけた。 (福新大雄、佐伯学)

 13日に上流部の広島県側で激しい雨が降り、水位が上昇したところに、14日は下流部の島根県側の雨も追い打ちをかけた。

 川本町の中心部に近い谷地区では、江の川の流れに支流・矢谷川の水がせき止められてあふれる「バックウオーター現象」が発生して氾濫につながった。

 氾濫の前に、約30人の地元住民が、迅速に避難したが、毎年のように対応を迫られ疲労の色は濃い。

 危険が高まった13日に続き、一度家に帰った14日も家族で川本小学校体育館に避難した近くの瀬上直春さん(80)は「これだけ頻繁に災害が起きるとやれん」と話した。

 バックウオーター現象は美郷町の港地区を流れる支流・君谷川でも発生し、冠水した。11日に5世帯の高台移転が正式に決まったばかりで、まとめ役の屋野忠弘さん(79)も「これだけ続くとかなわん」とこぼした。

 15日以降も警戒を続けながら、それでも前を向くしかない。「移転実現へ、住民が力を合わせて水害を乗り越えるしかない」と語った。

 さらに下流の江津市では人口約500人の桜江町川越地区にある田津、大貫の2集落をはじめ、計4カ所で氾濫した。川越まちづくり協議会の坂本勤事務局長は「昨年の水害からようやく立ち直りかけたところだった。言葉がない」とため息をつく。

 川沿いに民家が点在する川越地区は堤防がない「無堤」地域が広がり、水位が上昇すると他地域よりも早く冠水・浸水する。

 相次ぐ水害を受け、国土交通省は4月、島根県や流域市町と治水専門組織を立ち上げ、対策の迅速化を目指すが、まだ住民協議や用地買収の段階で、築堤や宅地かさ上げといった具体的なハード整備の着手には至っていない。

 坂本事務局長は「形として整っていなければ、何もしていないのと同じ」と一足飛びに事業は進まないと理解しつつ、語気を強めた。