新型コロナウイルス感染拡大を背景に昨年は小中高校生の自殺が過去最多の499人に上った。今年の上半期も昨年より増え、夏休み明けは特に多い傾向がある。教員が小さなSOSをキャッチできる仕組みづくりなど、学校現場で命を救うための模索が続く。
「どうすれば自分の心の声を聴くことができるだろうか」。心の病や自殺予防について知るため、3月に和歌山大付属中で行われた授業。教育相談を担当する公認心理師の藤田絵理子さん(54)が当時の2年生約140人に問い掛けた。
考えるヒントは普段の気分転換の方法。「デザートをたくさん食べる」「ペットと過ごす」などが挙がる。藤田さんは、気分転換したくなる時はストレスが強まっていると説明。「体調や行動の変化に目を向けることで、心の状態を把握できる」と伝えた。
精神的な不調を公的機関に相談した経験がある女子高校生も登壇し「SOSを出すことは恥ずかしいことではない」と訴えた。授業後は教員に悩みを相談する生徒が増えたといい、藤田さんは「助けを求めることは大切なんだという意識が広まった」と振り返る。
文部科学省の有識者会議は、昨春の一斉休校で児童生徒の孤立感が深まったことが自殺増加の一因と分析。6月、SOS発信の心理的ハードルを下げるような授業が有効と提言した。
ただ、子どもの悩みを把握しても、解決は容易ではないと感じる教員は多い。コロナ禍で父親が失業し親子関係が悪化した生徒に対応している静岡県立高の女性養護教諭は「家庭の問題には簡単には踏み込めない」ともどかしさを口にする。
昨年の児童生徒の自殺を月別に見ると、8月が65人で最も多く、9月も55人。学校再開が精神的な負担になる可能性が指摘されている。
兵庫教育大の野田哲朗教授(精神医学)は「児童生徒がSOSを出しやすくするのは重要だが、学校側が丁寧に向き合える体制を築くことも求められる。国は教員やスクールカウンセラーを増やすなど現場の支援を拡充するべきだ」と話した。