緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の違い
緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の違い
過料までの流れ
過料までの流れ
時短営業や酒類提供停止を呼び掛けるため、午後8時以降も営業する飲食店に出向く東京都の職員ら=8月、東京・新宿
時短営業や酒類提供停止を呼び掛けるため、午後8時以降も営業する飲食店に出向く東京都の職員ら=8月、東京・新宿
東京・新橋の飲食店街=1日夜
東京・新橋の飲食店街=1日夜
憲法の条文
憲法の条文
緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の違い
過料までの流れ
時短営業や酒類提供停止を呼び掛けるため、午後8時以降も営業する飲食店に出向く東京都の職員ら=8月、東京・新宿
東京・新橋の飲食店街=1日夜
憲法の条文

 新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず、政府は緊急事態宣言の発令を繰り返している。場当たり的な対策に翻弄(ほんろう)され、長期の休業や営業時間短縮を余儀なくされてきた飲食店。人と人とをつなぐ社交の場が失われている。

 

 新型コロナウイルス対応の特別措置法に基づく飲食店への営業規制は、緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の二つが柱だ。さらに政府は政令(内閣が制定する命令)に基づいて厚生労働省告示を改正し、都道府県の規制権限を強化してきた。一連の対策では、国民への説明不足と「法の支配」を軽視する姿勢が目立った。

 宣言の対象となった都道府県の知事は飲食店やホテル、百貨店などに休業やイベントの中止を要請できる。重点措置が適用された都道府県では知事が対象の市区町村を決め、特定の業態に営業時間短縮などを求めることができる。いずれの要請も「正当な理由」なく応じなければ、知事は命令を出せる。これも拒めば過料が科される。

 元々は生活に必要な施設として要請の対象外だった飲食店だったが、会食によるクラスター(感染者集団)が発生。感染対策の「急所」と指摘され、厚労省告示の改正で対象に追加された。

 昨年4月に初めて宣言が発令された東京都などは、学習塾や映画館といった広範囲の施設に休業を要請。現在は会社や学校などさまざまな場所でクラスターは発生しているが、これまで罰則付きの要請が出されたのは飲食店だけとみられる。

 特措法は、国民の自由と権利の制限は「必要最小限でなければならない」と規定。だが、政府にこうした姿勢は見られない。2月施行の改正特措法で重点措置が新設された後、政令に基づき厚労省告示の改正が繰り返され、アクリル板の設置など知事が要請できる内容が次々と追加された。

 政府は、重点措置は「休業要請ができず、宣言に比べ私権制約の程度が低い」と説明。しかし今年4月の告示改正で、飲食店に酒類の提供停止を求めることを可能にした。バーなどにとっては事実上の休業要請になり「脱法行為」との批判が出たが、政府は説明を尽くしていない。

 さらに法の支配の軽視が如実に表れたのが、飲食店に圧力をかける対策だ。政府は要請順守の働き掛けを金融機関に依頼し、酒の販売事業者には取引の停止を求めると表明。金融機関による「優越的地位の乱用」や販売事業者自体の営業の自由を侵害するとの批判を受け、撤回に追い込まれた。私権制限が適正かどうかは国会で不断の議論が求められるが、通常国会は6月16日に閉会。菅政権は、野党がコロナ対策を議論するために求めた臨時国会召集に応じていない。

 

感染抑止対策の犠牲に 営業規制Q&A

 

 憲法は「営業の自由」を保障しているのに、なぜ飲食店の営業を規制できるのでしょうか。東京都立大の山羽祥貴准教授(憲法)に聞きました。

 Q 営業の自由とは。

 A 憲法22条は、どんな仕事に就くのかを自分で決められる「職業選択の自由」を保障しています。職業を選ぶ自由があるなら、実際に行う自由(営業の自由)もあるとの考え方が一般的です。生活費を稼ぐだけでなく、職業は社会の中で個性を発揮する機会でもあり、大切な意味を持っています。

 Q だとしたら、飲食店への規制は営業の自由を侵害しているのでは。

 A 22条には「公共の福祉に反しない限り」との条件があります。公共の福祉とは社会全体の利益のこと。人権が互いに衝突する場合などに調和を図るための考え方です。工場周辺住民の健康を守るため、有害物質の排出を規制するという例が分かりやすいでしょう。

 Q 逆に感染拡大の恐れがあるなら規制しても構わないのでは。

 A あまりに過剰な規制をすれば憲法違反の疑いが生じます。もっともコロナ禍では、どの行為がどこまで危険なのかがはっきりしないことも多く、個々の対策の科学的有効性に不確かな点が残ることもあるでしょう。健康被害をもたらすウイルスが流行していることは確実である以上、予防的な規制が許されないとまでは言えません。 

 とはいえ憲法は、人と人のつながりを尊重するため、集会や結社の自由も保障しています。特に飲酒を伴う会食は「不要不急」と思われがちですが、家庭の外で人間関係をつくる場として定着してきた事実は重んじる必要があります。行き過ぎた規制にならないよう、最新の科学的知見を踏まえてチェックするのはもちろん、社交の機会を安全に確保する方法を探る視点も大切です。

 Q 損失補償を求める声もあります。

 A 憲法29条は「私有財産は、正当な補償の下に、公共のために用いることができる」と定めています。例えば空港建設の予定地を法律に基づいて収用する場合、社会全体の利益を実現するために一部の人の権利を犠牲にするので、公平の観点から補償の義務があるとされています。

 一方、有害物質を排出する工場の操業を禁止しても、補償は不要だと考えられています。他人を危険にさらす行為を控えることは社会生活を送る上で当然の義務だからです。これと同様にコロナ禍での飲食店規制に対する補償も不要との意見がありますが、全く状況が違います。オフィスや学校、家庭など、場所に限らずあらゆる人との接触にリスクがあるため、誰もが多かれ少なかれ感染の拡大につながる行為をしています。飲食店が対策の「急所」とされてきたのは、規制対象にすることが感染抑止に効率的だと判断されたからにすぎません。

 飲食店の規制で感染拡大が抑えられ、私たちが安全に生活することができたのならば、その日常は飲食店の経営者や働く人の犠牲の上に成り立っていたことになります。国家が補償することが公平にかなうと言えます。

 Q 自治体から協力金が支給されていますが。

 A 協力金は事業者に政策的に支給されているもので、規制によって生じた損失を補償するものではありません。ただ現状では何をもって「正当な補償」と言うかは難しく、経営維持のために十分な額が支給されるなら憲法上の要請を満たすという考え方はあり得ます。あまりに低額だったり、支払いが遅れたりするのは憲法上問題です。