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 全国で唯一の「県都の原発」が原子力規制委員会の審査に合格した。だが、これで再稼働への道筋が描かれたと考えるのは拙速に過ぎる。安全対策と合わせ、住民を守る「車の両輪」である避難計画には多くの不安要素が残る。これを置き去りに自治体が中国電力との協議のテーブルに着くことは許されない。

 避難計画の対象となる原発から30キロ圏内の人口は約46万人で、全国で3番目に多い。入院や寝たきり、障害などによって自力で避難ができない「要支援者」は約5万2千人に上り、全国で最多だ。

 島根県内の住民は県境を越えて広域避難することになるが、岡山、広島両県の計18市町村はいまだに避難者を受け入れるマニュアルを作っていない。事故時に周辺住民に自宅などで待機してもらう「段階的避難」の周知も道半ばだ。

 東京電力福島第1原発事故から10年半。「安全神話」は崩壊し、原子力を取り巻く環境と住民の意識は様変わりした。

 人口減少が進み、電力需要は減少傾向にある。リスクに見合った地域経済の波及効果があるかどうかも見極める必要がある。脱炭素社会の実現を目指す上での原発の位置付けや、増え続ける高レベル放射性廃棄物(核のごみ)をどう処分するのか、議論を尽くすべきテーマは多岐にわたる。

 中電が進める地元同意の手続きは関係自治体が対象で、再稼働の是非はそれぞれの首長が最終的に意思表示することになる。ただ、その判断は住民の納得に基づくものでなければならない。

 事故の備えは万全か、リスクや負担に目をつぶって安全性より経済性を優先することがないか、真剣に向き合い、考える必要がある。圏域の住民が、この地で安心して暮らし続けられることを第一に考えた議論が不可欠だ。  (政経部・井上誉文)