JR岐阜駅前の「黄金の織田信長公像」。新型コロナウイルスが流行していた頃はマスク姿だった=2021年1月、岐阜市
JR岐阜駅前の「黄金の織田信長公像」。新型コロナウイルスが流行していた頃はマスク姿だった=2021年1月、岐阜市

 旧知の大学教授が学生との距離感に悩んでいる。ここ10年ほどの間に教室の空気は変わり、ハラスメントと言われるのを避けるため指導時の言葉遣いに神経を使い、善かれと思っても叱るのはもっての外という。

 それどころか褒めるのも危険になった。友人の間で目立つのが嫌なのか、「みんなの前で褒めないで」と言われたそうだ。褒めて伸ばすどころかハラスメントになると怖いので「腫れ物に触る」扱いで接するしかない。

 昭和世代の教授にとって、さらに不可解な要望もある。偉人、文化人、芸能人など有名になるほど敬称が付かなくなるのが通例だが、学生が推す(好きな)人物を「呼び捨てにしないで」と言われたそうだ。

 野球界の長嶋茂雄や大谷翔平を称賛する時も「さん」を付けなければならないのか。そのうち「天下統一を目前にお亡くなりになった織田信長さん」などと言い出すかもしれない。「さん」は確かに対人関係維持には便利な潤滑剤だが、使い方一つで他者とのコミュニケーションに距離感を生み出しかねない。

 当方の古い友人同士は名字の呼び捨てだ。何十年かの付き合いの途中で肩書が付いた時など、「さん」付けの時期もあったが、やがて元に戻った。むしろ呼び捨てにできる人がいることは、かけがえのない人生の宝だと思っている。人間関係は遠慮のない方が長続きすることを、学生たちはどう思ってくれるだろうか。(裕)