2015年の台風11号の強風で根本から折れたカーブミラー(資料)
2015年の台風11号の強風で根本から折れたカーブミラー(資料)

 山陰両県で台風が心配な季節になってきた。日本付近を通過する最近の台風は大型化するものがあり、台風の進むコースによっては、暴風や大雨に見舞われ、大きな被害をもたらす。

 9月17日には台風14号が九州から四国、本州へと上陸。予報段階では山陰に接近する可能性があり、ひやりとさせられた。現在(9月26日)は台風16号が発生し、10月1日ごろに関東へ接近するという予報が出ている。台風は特に夏から秋に発生しやすく、山陰両県でも今後の注意が欠かせない。

 地震や火災と違い、発生が事前に予測できる台風は、普段からの備えが重要。防災意識をあらためて徹底するため、山陰両県のこれまでの台風被害を振り返り、普段からできる防災対策を2回に分けて紹介する。(Sデジ編集部・吉野仁士)

 

 台風が今年日本に上陸したのは、気象庁によると9月26日時点で3回。直近5年間の上陸回数は年間0~6回で、ほぼ例年通りか。

 8月の台風9号では、川の増水により益田市と島根県隠岐の島町で2人の死者を出した。過去、命の危機が迫る規模の災害はたびたび発生しており、今後も大きな災害に見舞われる可能性は十分にある。

 

海面上の水蒸気と上昇気流が原因

 台風や大雨が発生する明確な原理をご存じだろうか。山陰両県の気候の特徴を知る上で、理解しておきたい。

 気象庁によると、台風は海面の水温が高い赤道付近の海上で発生する。水温が高い海上では上昇気流が起こりやすく、海上の水蒸気が気流に乗って渦を巻きながら上空に集まることで、多数の巨大な雲(積乱雲)ができる。雲が次々に集まるのに伴って渦の勢いが強まり、巨大な台風になる。

 夏や秋に台風が多いのは、海面の水温が日射で高くなるから。台風は海面の水温が低い所へ移動すると水蒸気の供給が無くなり、だんだん弱まっていく。

 大雨は積乱雲が発達し、内部でできた大量の氷の粒が落下することで起きる。海上のみならず、地上でも暖かい空気が気流によって上昇して積乱雲となるため、台風と同じく地表の温度が高い夏によく起きる。

 

過去には台風で多数の被害

 山陰両県で最も被害が大きかった台風といえば、史上最大規模の暴風で知られる1991年9月の台風19号だ。最大風速は毎秒50メートルで、非常に強い勢力と速度を保ったまま1日で長崎県から日本海沿岸を進むコースをとり、北海道まで北上した。

 各地で観測史上最大の最大瞬間風速を記録し、暴風による死者や家屋倒壊、森林の倒木が相次いだ。

 山陰両県では松江市で最大瞬間風速毎秒56・5メートル、鳥取市で同48・6メートルを記録した。被害は島根県で負傷者が102人、建物の全壊や浸水は3万棟に上り、鳥取県では死者が3人出たほか、負傷者26人、800棟の建物被害があった。強風で車が川に転落したり、ガソリンスタンドの屋根が飛んだりと、台風の恐ろしさを物語る災害だった。

台風19号の猛威を報じる、1991年9月28日付の山陰中央新報
台風19号の強風で倒れた杉の大木。三渡八幡宮(島根県津和野町池村)の本殿が押しつぶされた(資料)
風速50メートルを超す暴風が民家を破壊するなど各地で猛威を振るった(資料)


 台風で被害に遭うのは人や建物だけではない。水産業や農業への影響も深刻だ。2005年9月の台風14号では、最大瞬間風速は松江市で毎秒21メートル、鳥取市で同32メートルを記録。鳥取県でナシの落果が相次ぎ、農業被害額はナシだけで3億1200万円に上った。島根県の水産関係では松江、出雲の両市で海中の定置網が破損し、1500万円分の被害があったほか、漁船の損傷により漁業に大きな支障が出た。

2005年9月の台風14号が過ぎた後のナシ園。大量に落果したナシが風の強さを物語る=鳥取県湯梨浜町久見
同じく台風14号が迫る中で漁船を点検する漁業関係者=浜田市原井町、浜田漁港

 直近で大きな被害があった台風は今年8月の台風9号。島根県では隠岐4町村を中心に大雨が降り、隠岐の島町の西郷地区の1カ月降水量は平年値4・3倍の669ミリで、8月の観測史上最多を記録した。民家や商業施設の浸水も相次ぎ、県内の建物被害は床上浸水9棟、床下60棟、一部破損64棟に上った。鳥取県は建物31棟が一部破損し、人的被害では境港市で高齢女性が強風で転倒して左手首を骨折する重傷を負った。

今年8月の台風9号による大雨で水に浸かった建物=島根県隠岐の島町城北町

 山陰両県での台風は他県に比べて死者が少なく、災害だという印象が薄れがちな面もある。しかし、台風接近によって、毎回一定数の負傷者や住宅、農業、水産業の被害が出ている。今後、毎回同程度の被害で済むという保証はどこにもない。いつでも「最大級の災害が来る」と意識して備えておく必要がある。

 

山間部に多い雨、平野部には強風

 台風や大雨の勢いは、各地の地形に影響を受ける。

 山地の多い島根県では、山間部の地形に沿って水蒸気が上昇するため、雲が発達しやすい。鳥取県は平野部が比較的多く、南部が中国山地に接する。島根県は地形的に雨が局地的に降りやすく、鳥取県は強風の影響を受けやすいのが特徴だ。

 島根県の年間降水量の平年値は、平野部の松江市が1700ミリ程度なのに対し、山間部の浜田市弥栄町、出雲市佐田町、飯南町赤名では2000ミリを超える。

 実際に大雨被害は山間部に集中している。今年7月、豪雨が雲南市や飯南町を襲い、国道54号が冠水した。8月には再び大雨で、江津市、美郷町、川本町といった江の川の下流域6箇所が氾濫し、道路や農地の冠水が相次いだ。山間部は平野部以上に、備えておく必要がある。

今年8月、大雨で江の川が増水し、農地に濁流が流れ込んだ=江津市桜江町田津

 鳥取県危機対策・情報課によると、ここ数十年、台風19号以外で深刻な風水害は起こっていないが、台風の際に高齢者が風で転倒して負傷する事例は多いという。「台風なら約5日前から県を通過するかどうかが分かる。気象庁や自治体からの情報を早めにつかみ、風雨が強くなる前に避難してほしい」と事前の準備を呼び掛ける。

 

大雨の特徴は変化。より大きな災害になる危険性

 台風への備えとともに、注意が必要なのが大雨だ。台風によりもたらされる大雨とともに、近年は、積乱雲が連続して発生することで同じ場所に雨が降り続ける「線状降水帯」が大きな災害をもたらしていて、注意が必要だ。

 7月の大雨では活発化した梅雨前線の影響で、「線状降水帯」が発生し、松江市と雲南市、飯南町に最高警戒レベルの「緊急安全確保」が発令された。8月は台風9号の後に再び前線の影響で大雨が降り、江津市、美郷町、川本町といった江の川の下流域6箇所が氾濫。出雲市多伎町の国道9号では大規模な地滑りが発生した。

 鳥取県では7月の大雨で、倉吉市内の工場裏山で土砂崩れが起き、従業員3人が一時飲み込まれる被害があった。

 これからの季節、秋雨前線が日本列島に停滞している時、台風が発生し、日本列島に近づいてくると、秋雨前線が刺激され、大雨になる恐れがある。

 

 日々を過ごしていると忘れがちになるが、台風や大雨は山陰両県を過去に何度も襲った。被災経験やデータを基にして、両県や市、町などは防災計画をまとめ、被害を最小限に抑えようとしている。<下>では島根県防災危機管理課に聞いた、災害時の具体的な対策について伝える。